第60話 妖風に

 人間の血肉を食らえるようになったのは、鬼とあやかしの子になった人生を終えてから。

 教えられたわけじゃないけど、その風景を見続けて2つの人生が過ぎてからは、子が親を真似るがごとく。

 最初は人の顔をしていたおのれもそれに慣れると、親の背を追うようになる。

 それが、最初に忍をやった後でのことだったから、親の足元でやっと立つくらいだった。

 ただ一度だけ、子忍の間に妖のようなことを口にしたことがある。

 血と脳ミソの味を、と。

 アレは己でもよくわからなかったが、それくらい頭に来てたんだろう。

 ただ、己にとってどっちが[異世界]なのか、あの紙のせいでわからなくなってしまった。

「着いた。アレが俺の雇い主の家だ。」

 そういって足を止めた。

「止まるなと、言った筈だけど?」

「で、でも、案内したら見逃してくれるっつっただろ!?」

「止まったら、何をするって、言ったっけ?」

「けど…行ったら……俺が殺されちまう…………。」

 リャトの首を掴んでニタリと笑んでやる。

「あんたの命なんざ心底どうでもいい。行きな。死にたくないなら、選ぶんだね。あんたの雇い主とこちとら、どっちが強いか。予想するくらい簡単デショ?」

 リャトはこちとらの言った意味を理解したのかしていないのか、黙りこんだ。

 あんたが死にたくないのはよくわかってる。

 だから、死にたくないなら選べ。

 約束か、それともただの雇い主か。

 ただそれだけのこと。

 リャトは家の方を見ると足を前へ出した。

「それでいい。」

 リャトへ妖術を使って刃を持たせる。

 それに驚いたが足を止めようとはしなかった。

 大丈夫、危うくなれば守ってあげるから。

 あんたが生きるために戦いな。

 逃げてばかりは息が詰まるでしょう?

 己でも妖に似たことをすると思う。

 こりゃ、セツさんに似たな。

 リャトは自ら自身の雇い主に刃を振り上げた。

「この、恩知らずめ!」

 ソイツは剣を手にとってリャトを切りつけようとしたので、その手に深くクナイを刺して鈍らせた。

 先手で切りつけたのはリャトで震える手で刺した刃を抜いて後退った。

「貴様…っ!」

「リャト、殺せるかい?」

「無、無理だろ…。」

「誰も一人でとは言ってない。ねぇ、言うこと…あるんじゃないの?」

「…い、一緒に…戦ってくれ…!兄を、助けてくれ!」

「タダで守ってあげるんだからね。感謝しながら殺すこった。」

 本当に、雪さん以上に言うことが酷い。

 狐が移ったかな…猫だけど。

 影でリャトを包み込んで、足を軽くさせてやる。

 リャトが心臓を貫いたのは、それから少し時間が経ってしまった頃だった。

「さてと、お兄さんだっけ?」

「う、うん。」

 拘束されて怪我だらけのリャトのお兄さんを見つけて、解放してやる。

「だ、誰だ?」

「た、助けて?くれた人だ。」

「何で疑問形なんだよ…。」

「あ、その、えと…悪かった。俺を助けてくれて、ありがと…。」

 似た顔並ぶということは双子かな?

 ただの兄弟にしては瓜二つ過ぎてるし。

 んなこたどうだっていいか。

「助けた?いや、あんだけ脅されてよく言えるね?違うでしょ。」

「え?」

「あんたを助けた覚えはない。あんたのお兄さんならまだしも、ね。一緒に戦った覚えならあるけど?」

「あ……一緒に戦ってくれてありがと?」

「うん、どういたしましてー。出来れば疑問形じゃない方が嬉しいんだけど、まぁ、流石に面倒だからそこまでは言わない。っていうか、あんたを見逃す約束だったからってだけだけどね。」

 二人に背を向けて、家の中を探る。

 何か手掛かりがないかなー。

 情報とか、何か土産に…。

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