第57話 名を教えて

「あんた何処のお人?敵ならさいならするしかないけど、そうじゃないってんなら後でまた会えるかもしんないから。」

 関節外して鎖から抜け出してグイッと顔を近付ける。

 すると後ろへ遅れてちょっと下がって顔を反らした。

「い、言えるかよ。」

「じゃぁ、敵なの?」

「う……。」

「残念。それじゃさいなら。」

 影から忍刀を抜いて構える。

 ここまで押したのなら後は切るだけ。

 ただ、コイツが使えるってんなら利用しよう。

「ちょ、な、何で武器持ってんだ!?」

「何でって。あんたが敵だからでしょ?」

「違う!俺、お前の全部没収したんだぞ!なのにっ、何処に隠してた!?」

「何処って、忘れたの?こちとらがあんたの影に潜んでたこと。影の中以外に没収されない場所なんてあった?」

「待て待て!切るな!」

「敵…なのに?殺さないとあんたに殺されちゃうもん。」

 ジリジリと追い詰めながら忍刀を脅すように揺らす。

 頭を三度も叩いたあんたを、三枚下ろしにしてもいいよ。

「わかったから!敵じゃない!」

「敵じゃないなら教えてよ。あんたは何処のお人なの?そんで、なんて名なの?」

「それは言えねぇけど。」

「名も教えてくれないの?やっぱり敵だから?」

「ち、違う違う!!俺は、その、ジークだ!ジーク!」

「ふぅん。ジークっていうの。」

 床に刀をざくっと刺せばビクリと肩を跳ねさせる。

 そんなに怯えてどうしちゃったのかな?

「嘘つきジークさん、本当の名はなんて言うのかな?」

 視線を合わせる為に、しゃがんだ。

 焦ってるってよくわかる。

「なっ、嘘じゃない!」

「残念ね。こちとら、嘘くらいわかるのよ?嘘を見破る方法なら、幾らでもあるからねぇ。」

 片手を相手の手にそっと乗せる。

「手の甲が赤く光ったら嘘。青く光ったら本当。ね、もう一回あんたの名を言ってごらん?ジークですって。」

「うぅ、わかった。降参だ。お前そんな能力持ってんのかよ……。」

「教えて?」

「お前の名を先に教えろよ。」

「こちとらの?そうね……なんて名が呼びやすいかしら?」

 手を離して考えるフリを見せる。

 いいから早く名くらい言ってよね。

 大体そんな能力持ってないし。

「もしかして、名がない…とか?」

「悪い?あんたと違って名なんてないの。」

「いや、その、俺が悪かった。俺はリャトっていう。」

「リャトね。今度は嘘じゃない。」

「やっぱわかんだな。」

「わかるよ。能力使わなくてもね。」

 いや、目を見りゃあんた程度ならわかるさ。

 馬鹿の目は口ほどに物を言うからね。

 忍の目は物を言うほどじゃないから嘘もまことも見分けづらいっ!

「リャト、敵じゃないなら没収したやつ全部返して?」

「それは……。」

「わかった。じゃぁ、リャト、おやすみなさい。」

 忍刀を振り上げた。

 リャトは目を瞑って手で防御しようとするが、その手が空く腹へ刀の柄頭で思いっきり突いた。

 腹を抑えて咳き込み、うずくまるその首へ手刀を入れて気絶させる。

 鎖を手に取り、同じように縛り牢屋を後にする。

 分身から没収されたモノを受け取ると、扉に鍵をかけた。

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