第56話 囚われの

 目が覚めると、縛られて牢屋の中に居た。

 ズキズキと痛む頭で、思い出しながら考える。

 捕まったのは好都合かもしれない。

 拷問があろうとなかろうと、此処を出て確認し、この階が館の地下なら金庫でなくとも保管場所はある可能性が高い。

 そうでなくとも牢屋といえば普段生活している場所からは遠いことが多いからあとは館に住む人間のタイプさえ掴めれば簡単に事は進む。

「目が覚めたか。案外早いな。」

 声の方へ目を向けながら起き上がる。

 生け捕りにして情報を吐かせるとか言ってた記憶があるから、拷問だろう。

 その手に持つモノが拷問に使う道具だとしたらね。

 早めに痛覚を切っておいた方が楽だろうけど、最初はわざとでも痛がっておけば相手にショックは与えられるかもしれない。

 過去にそんな馬鹿もいたことだし、やってもやらなくても損はない。

「お前は何処の者だ?言え。」

 縄じゃなく鎖か。

 縄なら爪で切り解くけど、鎖は隙を見て関節外さないと。

「答えないなら仕方ないな。」

 ソレを振り上げる。

 いや、あの、その道具は殴って使うんじゃなくてどっちかっていうと切る………いたぁーーーーい!

 しかもそれ持つ方違ーう!!

 鞘から刃を出して!?

「答えろ。答えるまで続けるぞ。」

 答える前にすっごいツッコミ入れたいんですが……。

 続けられたらいつか笑っちゃうから!!

 ある意味止めて欲しいんですけど!!

「そうだな…マスクを外してみるか。それじゃ顔がわからん。」

 今更!?

 それって相手が意識失ってる間に取るんじゃないの!?

 コイツ素人もいいとこだよ!!

 噛むよ!?

 忍舐めてる!?

 マスクに手をかけようとするのを首を振って邪魔する。

「こら、首振るな!このっ!」

 がしっと固定されてマスクを降ろされる。

 その瞬間その手に噛み付いた。

 だけど相手は反応なしで、固まっている。

 沈黙が流れて、変な空気になる。

 ガジガジと指を噛みながら、上目遣いで様子を伺ってみる。

 あれ?効いてない?

 歯に仕込んだ麻痺させる薬が効いてないみたいに全然反応しない。

 何をそんなに目を見開いて見ることがあるのか。

「お…お前……。」

 やっと何か言ったと思ったらハッキリしない声。

「お前…そ、それ……俺を騙そうとかっ、してるのかっ!?」

「は?」

「そうだろ!?作ってんだろ!?」

「あの…さ。話が見えないんだけど……。」

「見せろ!」

「何を!?」

 顔をペタペタと確認するように触ったり、髪をくしゃくしゃに撫で回される。

 何がしたいんだこの人。

「な、変装じゃない!?」

「え、あ、そう思ってたの?」

「お…前、素顔……?」

「化粧なんざしてないよ。」

 いや、ちょっと傷隠しで化粧入れてるけど。

 あるじに見られちゃいけないからね。

「え…え…?」

 顔を赤くする様子をみる限り、こりゃ伝説さん並に誘惑とか出来るかもしれない相手だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る