第54話 花は咲きつ忍は

「報告致します。」

 夜影ヨカゲの分身が突然現れて事細かく報告してくれた。

 やはり、狙われていたか…。

 才造サイゾウだけ此処に残して正解だったかもしれない。

 夜影は引き続き向こうで探りを入れ続けるつもりで残り、分身をこっちに寄越したらしい。

 ただ、何かあれば分身をまた向かわせるか、分身を残して本体がこっちに戻るかするとも言っていた。

 報告を終えると分身はその場で消えた。

 才造は一気に警戒度を上げて、常に武器を手につがえるようになったし、俺の傍を離れなくなった。

 姿が見えなくとも天井裏等で護衛をしているのだとか。

 俺もからくり等を思い出しながら、ぐに戦闘へと切り替えることが出来るように構えておく。

 あの落とし穴も逃げ道として使えば、才造の隠し部屋へ行けるらしいからそれも頭に入れておく。

 と…いうか勝手にいつ隠し部屋なんか作ったんだ。

 せめて作る時は俺に一言言って欲しいモノだ。

 夜影の報告と、才造の察知が頼りだ。

 だが、無理をして死なれては二人は元の世界にも帰れなくなる。

 本当に無理だったら主に構わず逃げてしまえと言っても二人は首を振ってしまった。

 忍の忠誠心を殺すなとも溜息をつかれた。

 夜影は特に「主守って忍として死なせて下さい。今後一切、その言葉をこちとらに向けないで下さいよ。」と、珍しく笑みのない真剣な顔で言われた。

 一人の人間ひととして逃げて生き延びるか、主を守り最後まで忍として死ぬか。

 選べと言われて後者を迷いなく選ぶような夜影はきっと今までそう生きて死んできたのかもしれない。

 忍の主は、こんな命を金で雇っては道具としか見ずに死なせてきたのか?

 それが普通なのか?

 こんなに自分のことに最後まで命を掛けてくれる忍たちを?

 そうこぼせば才造は変わらない無表情で「それが忍であり、それがワシらのいた世界です。死んでむくろになり踏まれるか、骸を踏んで頂上に立つか、それともただの人として道を歩くか。ワシらは死んで骸になる忍。ただ、それだけです。」と答えた。

 その目で何を見て、その身に何を教えこまれればそれが普通だと淡々と言えるようになるのだろうか。

 ふと、夜影が生けた花が目に入る。

 才造に聞けば、花も薬として使えるものもあったり、花では無くその葉や根が薬として使えたりするため、忍であれど花を摘むことがあると言っていた。

 生けた花はただ、夜影が気に入った等ではなく、オルカやメルが花を好きと言ったから薬草を採取するついでにと摘んだだけらしい。

 本人にも問うたが、花を綺麗だと思うことはほとんどないうえに、心底興味もない、と冷たく返された。

 その綺麗だと思える花はなんだと聞いたら、桜だと苦笑した。

 桜が咲くと決まって主に、舞い散る桜の中で舞えと言われて、毎年舞っているうちに綺麗だと気付いたのだとか。

 しかも、桜を使った忍術や妖術まで作り出して主を喜ばせたり敵を驚かせたりしていたから桜は唯一好きな花だと笑った。

 どうやらこの世界も向こうの世界も草花や季節は同じらしい。

 忍も花もはかなく散ってしまうのに、生きて咲く間はこんなにも…

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