第53話 上からも下からも

 分身の視界から得られる館の中の風景等を頭の中で地図にして整理する。

 大体の館の大きさは上空から見たため、形はわかるし庭の様子も確認出来た。

 館の外を走って一周してから、何処から忍び込むか決めよう。

 今のところその余裕がある。

 にしても後ろにいる奴が結構しつこくついてくるなぁ。

 大声で叫びながらってわけじゃないからまだマシではあるけど、コイツの目的がわからない限りどう片付けるかも定まらない。

 館に用があるのなら使えるが、館に用がある奴に用があるのであればさっさと殺さないと。

 館を一周して、丁度良さげな忍び込み口を見つけたのでそこへ向かおうとした時、腕を掴まれ引き寄せられた。

「あんたねぇ…。」

 邪魔するのならどちらに用があれどイラつくので始末してやろう。

 クナイを左手に忍ばせて右手で振り払った。

「そうか。お前は右利きか。」

「だからなんだって?邪魔しないでくれる?」

「お前が答えないからだろう。敵なら生け捕りにするが、そうじゃないなら見逃す。」

「あぁそうですか…。隙アリ!」

 相手が少々気を抜いた隙に館へ忍びこんだ。

 真っ直ぐ分身が見つけたこれまた良さげな場所へ止まることなく天井裏をスルスルと走った。

 天井の板を一枚静かに外してわずかにズラす。

 何かふみを手にするやっこさんの手元へ目を凝らす。

『返事が遅れてすまない。グカイについてだが、早めに始末した方が良いだろう。アイツは腕の良い仲間を二人雇っている。それを奪ってこちらで雇えば戦力は上がるだろう。それに、問題のロシェルの奴もグカイが雇った一人に殺されて雇っていた奴が野良状態だ。都合が良いとは思うが、あとはいつ仕掛けにいくか、だ。計画はお前に任せるぞ。こちらも一人良いのを雇ったから、お前の館を見張らせておいた。だが、油断はするなよ』

 板を戻して腕を組む。

 初っ端からちょいと良い情報取れたけど、ここを離れるわけにはいかなくなった。

 土産にその計画を盗まないと対処が出来ない場合も出てくる。

 取り敢えず、分身にあるじへ知らせに行かせた方が良いだろう。

 からすだと、辿られる。

「やっと見つけた。ここに居たのか。なるほどな。お前は敵だったってわけか。」

 武器を構えながら睨み付けられる。

「誰だ!?」

 下からもその叫び声が聞こえた。

 コイツの声で普通にバレたけど、情報を取った後は奴さんにとっちゃもう手遅れ。

 生け捕りにしたって死んでも情報を吐かないのが忍なんだし、吐かされる前に自ら死ぬのも忍だ。

 その為の薬が口の中に仕込んでいるのも普通なんだから、どうやったってコイツらはその程度で終わり。

 下から刃が音を立てて向かってきたのを避けて屋根をぶち壊した。

「逃がすか!」

 そこでおとりの分身を外へ飛ばしておのれはソイツの影へ入り込む。

 分身は素早く切られたが黒い風になって消えたのに驚いたらしかった。

「くそっ、何処に行きやがった!?もしかして、最初から偽物だったのか?」

 走りながら探し始めたのは好都合で影の中でソイツを移動手段として利用する。

 何処かでそっと抜け出すか、別の影へ乗り換えれば大丈夫だろうしさ。

 必要なら、わざと捕まって探ろう。

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