第52話 任務

 朝になると、あんなにも軽かった体は元に戻っていた。

 といえど、結局は意思で体を動かしたわけでもないから軽いというよりまた別かもしれない。

「元に戻って何よりだ。で、何があった?」

「ちょいと相手さんの機械の音に叩き起こされたってだけ。調子乗って首落としたし、伝説さんを怒らせたかもなぁ。」

「そうか…。よくはわからんが、まぁいい。後はソイツをどうするかだな。」

 あるじの居ない忍がどうこうじゃないし、伝説さんは主に感情も持たないから敵討ちをしようとはしないだろう。

 主に家族やらの繋がりがあって、そのまま伝説さんがそれに雇われたんなら、望めば敵討ちなんてらしくないことをしにくるだろうけどね。

夜影ヨカゲ!」

 主の声がおのれを呼ぶ。

「ハイハイっと。」

 影に入り込んで主の元へ出てくる。

「何かご用で?」

「あぁ、ちょっと頼みたいことがあるんだ。」

 屋根をつたって狐の雨を走り抜ける。

 足が雨水を蹴って、散って音を立てるのも目的地に着けば命を左右する音へと変わるかもしれない。

 まだ情報が少ないってのに、真っ直ぐ其処そこへ忍び込むのもこちとらの都合じゃない。

「あー、嫌になっちゃう。よりにもよって、微妙な雨の中ですか。いっそ、土砂降りの雨なら音も血も流し消してくれるってのに。」

 いつか言った言葉とぶつかり合うような言葉をこぼしながら、マスクで顔を隠す。

 バレちゃ困るようなお仕事でもないけどさ。

 屋敷から少し離れた木の枝に立って目を凝らす。

 こりゃ、一旦分身に行かせるのが吉かねぇ。

「何か用?」

 後ろで気配がかすかに揺れたのに目を向ける必要も思わずそう声をかけた。

「お前はここで何をしている?」

「聞いて答える相手だとでも思ったわけ?」

「どうだろうな。案外、口を滑らせる馬鹿だったりするからな。」

「お生憎あいにく。害虫に喋る口じゃないんでね。」

「お前、何処のだ。答えによっちゃぁ始末する。」

 武器を構える音が雨の中でそっと耳をノックする。

 無駄に戦うと本当なら血の匂いでやっこさんに気付かれかねないから嫌なんだけど、雨だとあんまり気にする必要はないかもな。

 ま、匂い消しもある事だしコイツが仕掛けてきたら邪魔なら殺すかね。

 問いに答えずその場から飛んだ。

 と、同時に先に分身を館に滑り込ませる。

 誰かの影に入り込めれば一番楽なんだけど、気付く奴は気付くからさっさと情報手に入れて帰るとしますかねぇ。

 背にはさっきの奴が追ってきている。

 コイツのせいでバレる危険性もあるけど、バレたら利用して退散ってのもアリかな。

 いや、先にコイツを処理して安全に進むが吉かもしれない。

 けど、こちとら一人の任務だし多少無理しても仲間に被害は出ないから無視してもいいけど、やっぱそっから辿られて主のとこまで害虫が行く可能性もあるだろうし完全に辿る糸を切らないといけない。

 どうもまだ異世界が何処までが普通でどんなことが出来るかわからないから無駄に考えなきゃいけない。

 焦ることなく確実に、ね

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