第51話 豹変
空気が重たくなった。
気配がするわけでもなく、風が唸るわけでもない。
自然と不安にさせてくるこの空気は、感じたことのない冷たさをまとっている。
「
心臓を貫かれたような感覚が背から忍びよって首を絞める。
声は何処からなのか察することも出来ない。
「
名を呼べど、声の持ち主は現れず。
感情も感じない、ただ重いだけの空気が精神から押し潰そうとしてくる。
「夜影。」
主がそう呼んだ瞬間、すぐそばでゴトリと落とされた音がした。
主の足元に置かれたそれは、血塗れの生首で、何処かで目にしたことのある顔だった。
「夜影!?これは…。」
「えぇ。伝説さんの主の首に御座います。」
そう答えながら、影からズルリと姿を上がらせた。
その様子は
「そ、それで、伝説の忍の方は?」
「始末しろと主が言うのであれば、致しますが?」
「生きてるのか?」
「生かしはしましたが、あの傷で何処まで動けるのでしょうね?」
クスクスと静かに笑う夜影は、作られた笑みだとわかるほど不自然に、そしてそれが人形と同じ不自然さを持ち、余計に不気味さをこちらへ与えてくる。
その首をギギギとこちらへ回しても違和感がないくらい空虚感を抱えてただ立っている。
ただ、そんな雰囲気を持って現れる辺りが、本物である証拠のような気さえする。
「何か、あったのか?」
「いえ?特にございませんが?」
「そうか?」
「それでは、この首を埋めて来ますね。」
首の髪を掴んで引き摺りながら持っていく。
それでももう血が乾いたのか、床にはその血が乗ることは無かった。
今夜は寝れそうにないな。
立ち上がるのでさえ億劫になってしまったのは間違いなく夜影のソレのせいだ。
「夜影…どうしたんだ?」
「何か、相手に少々仕掛けられたのやもしれません。何かしら影響を受けての状態だとは思いますが、相手も夜影を舐めていたんでしょうね。」
「そうなのか?」
「抵抗の結果あの様になり、相手の首を落としたんでしょうから。明日には戻ると助かるんですが。」
嫌がる体を無理矢理立ち上がらせて、自室へ移動する。
気を付けなければ、魂を狩られる。
どうせワシは生き残れまい。
それでも狩られないよう、目を凝らしていよう。
夜影が生きて帰るまではな。
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