第48話 ちょいと一戦

「伝説の忍って何て名前なんだ?」

「呼ばれ名も、名乗り名も特にないですよ。喋らないし、伝説の忍ってだけで事足りますし。」

「そうか?」

「忍をいちいち名で呼ぶあるじなんざ少ないモンですから。」

 伝説さんの名なんて知ってるのはこちとらだけで充分だっての。

「お前らよりも年上なのか?」

「こちとらより上ですよー。」

才造サイゾウは?」

「ワシはまだ25だ。」

「才造はこちとらの先輩ですからねぇ。っていいながら、実は生きてる年だけ数えればこちとらにしちゃまだ才造も主も赤ん坊ですけどね。」

 それには驚いた顔を見せる。

 そりゃ転生を繰り返してれば年の数だけは立派なモンよ。

 伝説さんも、今思えば転生してないとすればかなりのおじいちゃんだけど。

 だから、同じような状態なのかもしれない。

セツさんはこちとらよりも生きてますよ。こちとらは転生してますけど雪さんに至ってはまだ死なずしてアレですから。」

あやかし凄ぇ。」

「妖はそりゃ何十、何百年と長いモンですよ。」

 風の流れが変わった?

 才造の背の刀を抜いて振り下ろすと、伝説さんの刀とぶつかった。

 耳をつんざく音の後、髪に隠していた毒針を抜き、飛ばす。

 これが効くなら倒せる相手なんだけど。

 切り払われて、後方へ下がる。

「あらら、随分ずいぶんとおっかない目をするじゃないの」

 才造に投げ返して今度はおのれの刀を引き抜いた。

「今度は何の御用で?」

 何も伝えようとしないとこから察するに、ちょいと任務で狙ってきてるな。

 冗談は通じないんだよね…こういう仕事の時は。

 目で追える速さならどうにかしてる。

 そうじゃないからなんとなくで刃を振り回してる。

 そんなんで防げるから驚きなんだ。

 蹴りをモロにくらって吹き飛ばされた分身を消して背から鞘を狙った。

 すると振り向きざまに風を起こしながら防がれる。

 伝説さんは風を唸らせ、己は影を踊らせる。

 お互い相手が見えちゃいないのはよくわかってんだ。

 才造が手出ししようとしないのは、入る隙間が無いからだろうね。

「ぁっ。」

 手から刀が滑り落ち、液体が舞った。

 その刀を掴んで、その影を消す。

「ちとぃやぁ。」

 引き寄せの術で下がらせない。

 主でもなくこちとらを狙ってるってことは、何か企んでるんだ。

 向こうの方がね。

 影潜りの術と影追いの術を使い、更に攻撃を加えていく。

「(………!)」

 おっと、どうやら手応えアリ?

 油断なんないでしょ、お互いにね!

 首を掴まれ地に叩きつけられた。

 それでもこの手でその首目指してクナイを投げて退かせる。

 首がちと痛いけど、だからなんだって?

 血が静かにわずか流れた。

 拭って構え直す。

 妙な音に頭上を見上げた時には檻がすぐそこまで迫ってきていた。

「え?」

 咄嗟とっさに逃げようと走ったのは伝説さんの方向。

 伝説さんだって己だって、その行動には予想外というか、なんというか。

 咄嗟で[檻から]逃げようと体が行き先を判断したのはある意味正解なんだけどね。

 伝説さんと一緒に檻に閉じ込めようとか主の方があんまり考えないだろうから。

 いや、こちとらならソイツもろとも檻に入れるけど。

 その咄嗟の行動が案外一番凄かったりしない?

 例えば、今の動きなら伝説さんの肩に両手を置いて飛び越えるくらいは軽くその瞬間で出来ちゃうくらい速く動けて、それに伝説さんが反応しきれなかった、とかね。

 ついでにその背中にクナイを一つ刺し残してるあたり、最早もはや己でさえ地に足を着けてから気付いた。

 檻は大きな音をたてて、落ちた。

 現伝説と戦っていると、どうも伝説の血が騒いじゃうよね。

 いや、騒いじゃうほど盛んな血じゃないけどね。

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