第45話 非番

「おっはようさん!朝だよ才造サイゾウ!」

「…タフだな。」

「地獄見るたびんでらんないっての!今日はねー、才造の好物にしたんだよ!」

「地獄……か…。」

「いや、まぁ、確かにちょいと沈んだけどさ。んでも、ダルいし?」

「そうだった。お前はそういう奴だった。」

「えへへー、そういう奴だよ。」

 ニッと笑うその様子はあの沈みきった昨日の姿が無かったかのように面影すら見えない。

 悩んでも、苦しんでも、結局はその感情も何もを捨てる。

 そして、いつも通りの笑みを浮かべてはクルクルと。

「才造、才造!」

「なんだ?」

「名を呼んで?」

「………。夜影ヨカゲ。」

 また、その流れになるのかと思いきや今度は満足気に頷いて、とてとて歩いて奥へ行ってしまった。

「タフな奴…。」

 壊れる心配も無いのかもしれない。

 するだけ無駄…というやつか?

 寸前まで行ってまだ笑うとなれば、厄介なのは伝説の忍ではなく夜影なのかもしれない。

 朝食を済ませれば、出掛けるというので着いていく。

 夜影は扉を開けた瞬間凄い勢いでバタンッと閉めた。

 ワシの目に間違いが無ければ、そこにはアイツがいる。

「おい。」

「気のせいかな?こちとらの目に伝説さんが…。」

「気のせいだろうな。」

「そっか。良かったぁ。」

 少しの沈黙が流れた。

「って…なわけないでしょーが!!」

 扉の鍵を素早くかけながらそうツッコミを入れる。

「ねぇ、居たよ!?間違いなく見えたよ!?」

「あぁ…。居たな。」

「どうすんの!?」

「開けてみるか?」

「嫌だよ!!」

 そんな会話してたら、扉がぶち破られた。

 そりゃそうだよな。

 ワシでもそうする。

「お帰りください!!」

「丁寧に言う余裕はあるんだな。」

「まぁねー、って伝説さん後で扉の修理代置いていきなよ!!」

 しっかりそこは気にしている。

 わちゃわちゃしているが、まぁ、いつも通りというか、わざとふざけてこんな会話してる。

 伝説の忍もそれをわかったうえでこの馬鹿みたいな輪に入ってきている。

「伝説さん、今日はどうしたんです?あるじの首でも持ってきてくれたんですか?」

「(違う。)」

「だろうな。」

 何気にまだそれを根に持ってるのだから、首を落とすまでネタとして使い続ける可能性もある。

「(遊びに来た。)」

「わぁ!丁度出掛けるんですよ!一緒に行きます?」

「(いく。)」

 遊びに来たってだけで扉がこんな状態になるのはまだ主らは知らないだろうし、片付けていく方がいいんじゃないかとも思うが、コイツらにはそんな気はゼロらしい。

 よく考えれば普通じゃねぇ…。

「才造、どしたの?伝説に普通求めてどうしたの?」

「やめろ。ワシが可笑しいように聞くのはやめろ。」

「いや、可笑しいけどね。」

「口を塞ぐぞ。」

「息止まっちゃうって。」

「お前口呼吸か。」

「いやエラ呼吸。」

「さばかれたいか?」

「刺身にしないでー。あんま美味しくないよー。食べるならここら辺が1番美味しい。」

「紹介するな。やめろ。何処で止めたらいいかわからねぇ。」

 流石の伝説もついていけなかった会話がどんどん置いてけぼりにしていく。

 というかワシもギブアップだ。

「質より量で勝負だよ!」

「質も高ぇ。」

「結構低いんだけどね?」

「ワシの感覚だ。」

 これじゃ終わりが見えない。

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