第44話 静かに

「いっそ、おのれを呪いたい…。」

夜影ヨカゲ…。」

「部下に捨て置かれるって、笑える話だよ。」

「なら、笑え。」

才造サイゾウってば無茶言うー。」

 無表情でただ延々とそんなことを喋る夜影は、疲れきったようにぐったりと、机に伏せていた。

 精神的に辛いのだろう。

 さっきまで、ワシの腕の中に収まりすんすんと泣いていた。

 流れ出る血を止血せずにこれでもかと。

 泣けば今度は喋る。

 血は、喋り出す頃には止まった。

「今頃どうしてんだろ?」

「何がだ。」

あるじセツさん。」

「さぁな。」

かたわらに居るんじゃないの?」

「知るか。」

「帰りたい。」

「同感だ。」

「泣きたい。」

「なら泣け。」

「嫌だ。」

「さっきまで泣いてただろ。」

「だから嫌なんだって。」

「そうか。」

 一寸の隙間もない会話が台本をただただ読み上げるかのように、感情なぞ乗せずに口から流れ出す。

 お互いに、お互いが何を考えているのか、読もうともしないでその作業のような会話を続ける。

 案外言葉がスラスラ達者に出るものだ。

輪丸リンマルっていうの、アイツ。」

「そうか。」

「もう、殺さなくていいよ。」

「そうか。」

「答えんの面倒?」

「いや。」

「じゃぁ、何か言って。」

「何を?」

「そうか、以外の言葉があるでしょ。」

「ないな。」

「考えてよ。」

「断る。」

「面白くないでしょ。」

「知るか。」

「嫌い。」

「そうか。」

「嘘。嫌いじゃない。」

「どっちだ。」

「嫌いになりたくない。」

「そうか。」

「うん。」

 途切れそうで途切れない会話が、延々と続くのは、会話が止まらないように夜影がワシの頷きに何かしらを言うからだ。

 内容も大したものでもないのに、取り合えずで話したがる。

 意味も考える必要はない。

 雪景色を窓から眺めながら、頷く。

 突然夜影の言葉が途切れた。

 見れば静かな寝息をたてていた。

 抱き上げて、ベッドへ連れていく。

 寝かせて頭を撫でれば、ポロリと目から一筋の涙が流れていった。

 きっと、ワシは生き残れない。

 もうすぐ本当に死ぬだろう。

 そんな気がしてたまらない。

 どうにかして帰ったとしても間に合わないのではないか、と思ってしまう。

 夜影のように転生出来たとしたら。

 そしたら……どうする?

 本来の忍の姿から離れていく。

 溜め息を飲み込んで、部屋から出ようとした。

 しかし、夜影が袖をぎゅっと掴んでいたため、動けなかった。

 うなされる夜影を撫でて、その場に座る。

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