第43話 「二人」の最終話

「でも…俺は夜上ヤガミと一緒に居たいんだ。忍としてじゃなく、人として。命削ってまで誰かの道具になって、もう、誰かを殺さなくていい。そんなんじゃ、笑えない!」

「だからなんだって言うの!あんたはもう忍じゃないんだよ。あんたはもう、人なんだよ。気付いてよ!もう…あんたとこちとらは、住む世界が違うんだ。」

「そんなことない!夜上だって、もう嫌だろ。味方にも捨てられるんだ。何も信じちゃいけない世界じゃ、息も出来ないだろ。」

「残念、こちとらは既にそんな落ちた世界にゃ住んじゃいないのさ。あの頃とはもう違う。確かにあるじの道具として息をする。けどね、まだ、信じていい奴が隣に居るんだよ。忍として、ね。」

 そう、落ち着いて。

 息を吸えば。

輪丸リンマル、あんたはもう立派な人間様じゃないの。何をそんなに叫ぶの。あんたは、確かに間違えた。けど、もう大丈夫。」

「大丈夫……じゃねぇよ………。夜上を残したまんまじゃ…意味ねぇよ…。」

「止めな。そろそろ、自分で歩く覚悟を持ちな。人であろうが、忍であろうが、いつまでも誰かにしがみついてちゃ駄目なの!あんたは自分の為に、こちとらは主の為に。あんたはあんたの生き方をしな。」

 口はやはり達者で、無い言葉を吐き出した。

 まるで輪丸を正すように、嘘を溢れさせた。

 あんたを引き剥がす為なら、先生のように息を吐こう。

 あんたが信じたこちとらはもうあの頃に死んだのさ。

 言ったよね?全部捨てたと。

「俺が、夜上を忍にさせたんだって言ったよな?」

「だからなに。」

「俺の、せいだよな?全部。夜上を苦しめたのも。」

「あんたって本当にお馬鹿さん。だからなんなの。だからって、要らない重荷まで背負うっての?」

「俺が騙されなければ、夜上を苦しませずに済んだのに…。」

「変えらんない過去をこちとらをネタにして背負って、どうすんの?ガキの脳ミソのままってわけじゃないでしょ。いい加減自分の足で立てっつってんのもわかんない?」

 輪丸の恐ろしさはこういうとこだ。

 依存して、抜け出せない。

 一人じゃ、どうしても何も出来なくなって求めて甘えてしまう。

 だから、引き剥がせない。

「あんたと一緒には生きれない。」

 キッパリとそう言ったが、輪丸は受け入れられないという目をしている。

 痛みが駆け抜けた。

 輪丸の刃がそれを走らせた。

「あんた…!」

「夜上を殺してでも、一緒に居る。あの時、一緒に居てくれると言った!」

「だからってまたあんたはっ!」

「間違っててもいい!もう…二度と離れない!」

 取り憑かれたように刃を振り上げた輪丸に、悲しくなった。

 どうしてあんたは……

「こんなにも仕方の無いお馬鹿さんなんだろうねぇ………。」

 刃を寸で避けてその腕を脇に抱えて、輪丸を抱き締めた。

 一度くっついたら離れない磁石じゃあるまいし。

 そんな輪丸を殺せないこちとらも、やっぱり相当甘い。

「人や忘れよ、記憶や散れ。我が名を変えて、手を失え。影は薄れよ、この脳撫でれ。の魂よ、の身へ帰れ。」

 輪丸、さようなら。

 死んでも解けない呪いを一つ。

 輪丸の首に赤い薔薇ばらの印が浮かび上がる。

 忍術も、忍であったことも、そしておのれの名も己との記憶も、全て忘れさせる。

「最後の鐘や、静かに朽ちれ。薔薇の花弁や、燃え尽きよ。」

 ただ一つ、自身の名だけを抱えて、人として生きて。

「もう二度と、こんな術を使わせないで………。」

 引き剥がすにはこうするしかない。

 輪丸から、刃が落ちた。

 手を離すと、輪丸は顔を上げた。

「お前……誰だ…?」

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