第41話 真実

 九尾は風を使って雪を舞わせて姿を変えた。

 人の姿に耳と尻尾を残したソレはこの世界に居ても違和感なぞ見せない。

「して、そこにるのは才造サイゾウと言うたか。こやつと死んだと。」

「……。」

「やはり喋らぬか。まぁい。実を言うとな、ぬしは死んではおらぬ。」

「今…何て言いました?才造が、死んでない…?」

「うむ。いや、お前も死んでおらぬがな。二人して生きておるわい。」

 少しの間、沈黙が流れ込み、二人は凍ったように瞬きすらしなくなった。

 生きている?

 夜影ヨカゲがしてくれた説明じゃ、死んだって話だが。

 で、不思議な話の答えに、転生したってことに…。

「生きてはおるが、生死の境でもがいておるようなモノだな。魂だけが此処にるだけでな、転生とは違う。」

「だから違和感があったってことね。転生にしては随分ずいぶんと生温い気がしてた。」

「あぁ、それと伝説の忍と言うたか、あやつも同じ状態に陥っておる。」

「じゃぁ、ここで殺しても意味がない…ということですか?」

「いや、この世で殺せば戻ってこれまい。向こうでは植物人間状態かもしくはそのまま死するか。」

「帰らなきゃ…。セツさん…どうやったら戻れますか?」

「それはまだわかっておらぬ。しかし、はよぅ戻らんと才造が危うい。」

「どうしてですか?…まさか…。」

「うむ。お前が察した通りかの。才造は片足死へ踏み出しておる状態 ゆえ、いつ死ゆるかわかるまい。」

 雪は才造を見つめながらそう言った。

 才造を見つめる夜影の目は、悲しげに揺らいでいた。

「雪さんは、どうやってこちらへ?」

「我もぬしらと変わらん。一時的に魂を此処へと置いておるだけでな。才造を連れ帰ることは出来ん。ちなみに言うが、丁度才造のかたわらにてこうした。」

「才造の横ですか。何でまた。」

「うむ。お前がまだ、戦場に転がっておるゆえ、わからぬのでな。」

 才造だけが連れ帰られたということか?

 戦場で伝説の忍と戦って、倒れている二人のうち才造だけを?

「戦場に、まだこちとらが?それじゃ、誰が才造を持ち帰ったっていうんですか?」

「それがの、また別の忍のようでな、どうやら才造は兎も角お前を嫌うておった者だったゆえ、お前を捨て置いたらしい。あるじにお前は死んだと嘘を言うてな。伝説の忍はまたその味方じゃろうて。」

 それには夜影は口をつぐむ。

 一人だけ、味方だろうがその扱いで、よくまだ生きていられたな…。

「才造は既に治療済みだが、お前はまだ傷を抱えておる。にしても、よう生き残った。」

 夜影は雪に頭を優しく撫でられる。

 夜影はだんだん、無表情へと変わり始める。

 冷たく、感情がないかのように。

 才造とは違った無表情を見せる夜影は、無言のまま撫でられ続けている。

「お前が忍隊のおさであり、味方であったとしてもそうした者を咎めねばならぬな。可笑しゅうことよ。よう頑張った、我が子よ。」

 慰めるように優しくそういいながら、抱き締めるその様子は本当に親のようだった。

 頭をゆっくり、優しく、撫でるその仕草は、大切なモノに傷が入らないようにするかのようで、人を食うあやかしのようではなかった。

「もう保てぬゆえ、我はく。待っておるぞ。お前の帰りを。決して、死ぬでないぞ。お前を探しあて、必ずやこの手で撫でよう。生きて帰れ。我を悲しませるな。」

 すぅっと足から消えていく。

 夜影はその両手でそれを拒むように、ぎゅっと雪に抱きついた。

 最後、一度だけ撫でると、雪は風と共に消え失せた。

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