第36話 今夜の話

夜影ヨカゲ!」

只今ただいま戻りました、っと。」

「メルは!?」

「あ、お部屋に寝かせてきましたよ。いやぁ、報告致しますと…。」

 夜影からの報告はなんとも面白いモノだった。

 才造サイゾウが笑うくらいだから、わざと面白可笑しく言っているのかもしれないが、とてもわかりやすい。

「ま、てなわけで残念ながら分身だけご挨拶にいっただけですかね。才造は行きましたけどね。」

「ソイツについてまた調べに行くっていうのは…。」

「あ、じゃぁこちとら夕食作るんで!」

 さっさと話を聞かずに逃げてしまった。

 いくら分身でもそれを動かすのにも疲れたんだろう。

 屋根の上でずっとそうしてただけでも体力が削がれるのかもしれない。

 いや、どうかは知らないが。

「才造もありがとな。」

「いえ。」

 それ以上言わないのは、ただ単に夜影の話の余韻よいんで笑っているだけだ。

「そうだ、才造は夜影の昔を知ってるんだろう?」

「聞きたいですか?」

「気になるからな。」

「笑えた話ではないんですがね。本人から聞いた方がいいのでは?」

「そうか?」

「それに、許可なく喋ると夜影が怒るので。ワシからは御遠慮ごえんりょ下さい。」

 そういうとドロンと煙を巻いて去っていった。

 忍は消えるのが早すぎて、引き止められない。

 夕食を終えて、夜影を呼べば、今夜は居るようでスッと現れた。

「どう致しました?」

「いや、お前のことが知りたくてな。」

「あんた様って結構知りたがりですね?何か一度でも気になれば気が済むまで問いたがる。」

 静かに笑うとそこに正座して姿勢を正した。

「何をお話致しましょう?何を聞けばご満足頂けるのでしょう?」

 その様子は話を語るのが好きだという口のように思えてしまう。

 実際どうなのかは知らない。

「語るのが好き…というよりも相手の反応を見やるのが好きなだけですよ。」

 読んだようにそう言った夜影は、何処から出したか扇子で口元を隠した。

 口元を隠してもわかるその笑みは、狐のようでも猫のようでもある。

「なら、夜影が妖術を使える理由を教えてくれ。」

「あらま。んな話でいいんです?変わったお人だこと。簡単に言えば、こちとらはある人生で一度だけあやかしに育てられたんですよ。」

「あやかし?」

「まぁ、この世界にゃそういうのってやっぱりいないんでしょうね。」

 夜影が妖についての説明を軽くしてくれた。

「なるほど。面白い者もいるのだな。」

「いやぁ、こっちも大概じゃないですか?ま、それはさておき。妖といっても真っ白な九尾なんですけどね。その人生からは今に至るまでずっと妖術と忍術を使って参りました。妖力が途切れやしなかったのも不思議ですねぇ。」

「ようりょく…。」

 色々と初めて聞く言葉が出てくるが、全て察してか軽い説明を加えてくれる。

「ま、鬼にも育てられたこともありますから、人生って何があるかわかりませんよ、本当。」

 扇子でくうを扇いで片手を広げる。

 俺からすれば、何度も死んで転生を繰り返している忍が目の前にいるのもまたその言葉通りというか…。

 本当に何があるかわかったもんじゃないな。

「ま、今夜は寝させやしませんからお覚悟を。」

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