第32話 裏切り者
「おはようさん!」
既にいつの間にか帰ってきた
「夜居なかったそうだが。」
「あぁ、ちょいとね。」
それだけ答えるとコップにお茶を注いで奥へと引っ込んでいった。
「答えませんよ。」
俺が夜影に何か問おうという気を先に沈めようとするように素早かった。
「よくあるのか?」
「いえ、たまに。」
「何か聞いていたか?」
「聞いたとすれば、姿を消す時に必ず言う合言葉くらいのものです。」
「それは…。」
「ワシから聞いたとて、ワシにしか言わん言葉ですので、意味は無いとは思いますが?」
才造は妙な圧をかけた声でそう言うと、夜影の方へと行ってしまった。
言いたくないのなら、無理に言わせることじゃないし、二人だけの大切な何かだとかと言うのなら、必要な時でもない今聞く必要もないだろう。
昼になり、オルカが駆け込んできた。
「ねぇ!メルが!!」
その焦った様子は異常事態を知らせている。
オルカについて行くと、メルが倒れていた。
「夜影!才造!」
「ハイハイっと。お呼びですか?」
二人を呼べばすぐさま音も無く来てくれた。
「敵は?」
「敵襲ですか?にしては静かですけど?」
夜影の言う静かというのは、気配の有無の話だということは前に才造から聞いた。
「お前が気付かないってことはあるのか?」
「あるっちゃありますよ。相手が伝説さんであればたまーに。それ以外はまだ覚えはないんですけどねぇ。」
メルの状態には一つも触れないでそうキョロキョロと周囲に目を回す。
敵の有無を問うたからだろうが、もう少しメルに対して反応をくれてもいいんじゃないか?
「探してみますかね?」
「お前が気付かない相手なら、ワシも気付けまい。面倒な相手かもな。」
早速行動を起こそうとする二人だが、取り敢えず止めておいた。
まずはメルを回復させて、それから話を聞いてみることに。
「何か…影が……見えたの…。それでね、影から…大きな手が…伸びてきて……。うぅ、それしか…覚えてないの。」
頭を抱えてそう小さな声で言った。
夜影は首を傾げてメルを見つめる。
影…といえば夜影以外に思い当たらない。
「裏切ったの………?」
オルカが夜影を睨み付けてそう問うた。
夜影はそれに答えようとせず、何か考えているように見える。
オルカはムチを手に取ると夜影を睨みながら構えた。
才造は素早く夜影を守ろうと前に立つ。
しかし、武器は持とうとはしなかった。
それは才造の忍刀の鞘を夜影が抑え、抜くなと示しているからだろう。
だから、そういうことなのだろう。
いくら武器を向けられても、傷付けることは許されないことであるから、
才造が守ろうと素早く動いたのが感情から来ている行動だということに気付いているからだとも思う。
才造の目の色が変わったから俺はそう気付いたが。
「裏切ったのね?答えないということは、そういうことね?」
「裏切ったところで、こちとらには得がないんですけどね?」
「どうかしら?もしかしたら、他に主がいて、そう命令されていたとしたら?」
「おい待て!!夜影がんなことするわけないだろ!」
オルカが本気で夜影を疑い攻撃を加えようとしていることに焦ってそう言うがオルカの気は止められない。
「夜居なかったことは知ってるのよ!その時に命令を受けに行ってたんでしょ!!」
「確かに居なかったけどさ、才造は居たぜ?」
「だから、影ちゃんだけよ。才君は騙されてるってことよ!」
才造は目を細めて抑えられている鞘に手をやった。
「才造、言ったよね?」
「どうせ
「才造がもし殺したなら、こちとらはあんたを殺すよ。許さない。そう、言ったよね?」
才造は鞘からは手を離したが、目付きが悪くなっていっている。
才造とオルカの感情を落ち着かせなきゃいけないんだ。
才造は夜影がいるから兎も角、オルカが難しい。
圧をかけた声と言葉に、才造は何とか攻撃の手をやめたが、気が済んだわけじゃない。
もし夜影を傷付けたなら、才造が黙ってないだろうし、もし俺たちの誰かが傷付けば今度は夜影が黙ってない。
「答えなさいよ。一人で何処に何しに行ってたわけ?」
「それを答えたとて、簡単に信じて手を収めるほど、感情がないわけじゃないんでしょう?さて、何て答えて欲しいですか?」
夜影のその挑発的な言葉は、疑われて幾らかイラついているのかもしれない。
「夜影…。」
「裏切りやしませんよ。だからイラついてるんでしょう?まだ、このアジトに居るんですから。」
「わかったのか?」
「アジトから出てないってだけですよ。何処の
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