第31話 最初

 死んで記憶を失い転生するなぞ誰が言ったのか。

 そもそも転生なんてすることが可笑しいと思う。

 あるじは何処で息の吸い方を再び覚えることになり、何処で再び死すのかも。

 いや、主が転生を繰り返してくれるものなのか。

 グルグルと頭にそんなことが浮かぶ。

 主とは、いったい、どれの者を指すのか。

 主の名を全て覚えているかと言われれば、さて、どうだろうか。

 感情を知るまでは変わるたびにその記憶を捨てていた部分もある。

 主に忠誠を誓う為、枷と首輪を捨てる為。

 こちとらが名で呼ばれたことは、才造サイゾウに会うまでただ一度あったが、それを知る者は今更居ないし、才造が与えてくれた名が今では普通のように存在する。

 最も古い記憶といえば、子忍の頃…まだ一度も死んでいない頃のガキの記憶だろう。

 自分の名も親も無いこちとらを拾い、忍へと育て上げた奴の姿や名も記憶にないが。

 子忍の頃に忍の里一つか二つを潰したあの赤黒い記憶が未だに目に浮かぶ。

 ただ、その理由は覚えていない。

 それが伝説にさえなる。

 今や伝説の忍と言えば彼一人だが、知る人ぞ知るというやつで、こちとらも何処かの書物にでも記されてる筈。

 何せ、あれほどまで世を何度も掻き回したのだから。

 まぁ、その伝説の名を知るやつはみな死んじまって書物やらを漁るくらいしか知りようがないといった現状。

 最初の主との別れ方をよく覚えている。

 主は主と呼ぶだけで、その名はあまり呼ばないけれど。

 まだ一人前の忍でもない未熟な子忍が、優秀というだけの取り柄で主に雇われ己が死んだことにも気付かず主を探しながら終わり。

 そんな忍生もあったな。

 次はまた子忍からやり直しで優秀なのもまぁ記憶があったから余計にそう。

 そんな感じだろう。

 伝説にまで成った忍が今度は異世界だ。

 笑い話もいいとこだと思うけどねぇ。

 一度は伝説、二度は猫、三度は異世界、四度は何処にあるのだろう?

 人生が終わり変わるまで、主に忠誠を誓おう。

 名をまた忘れ去られるまでこの名で応えよう。

 何年、何十、何百、万年と何度でも。

 そう、何度でも。

 その為に……。

 忍として息をし続けるにはちと苦しすぎる。

 助けてよ。

 ねぇ。

 虎太コタ兄さん。

 遠いよ

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