第28話 響け

「おつかれさーん♡さっすが伝説さん!」

 聞こえた声に目だけを向ける。

 肩に乗っているのにも関わらず空気のように軽く、体重なぞないに等しいとでも表すようだ。

「(何かあったか?)」

「ちと、伝説さんの力が必要でさ。」

「(力?)」

「策に乗って欲しいんだけど……。」

 そこで言葉を途切らせる。

 しゅるりと猫の尻尾が腕に巻き付く。

 その尻尾の持ち主が誰かはわかっている。

「ねぇ、協力…してくんない?」

 甘えるような声が耳元でそう言う。

 ぎゅっと軽く抱きつかれ、体が動かなくなった。

 別に拘束されているわけではないが、何を思う前に鈍る。

「だめ?」

 その問いかけに、息が詰まる。

 あるじから任せられる仕事ではないうえに、別の忍から持ち込まれている。

 それに協力なぞ、そうそうしてられないし、するわけがない…のだが…。

 ギリリと歯を食いしばる。

 耳をしゅんとさせて困ったような顔を見た瞬間、耐えられなくなった。

「(わかった。何をすればいい?)」

「わぁ、流石伝説さん!頼りになる!んじゃ早速。街の周り一帯に風を回して欲しいかな。」

「(風を?)」

「そうそう。モンスターの数を一気に減らそうかなぁって思ってね。」

「(わかった。)」

「えへへ、頼んだよー♡お唄を歌ってあげますから!」

 その口から流れ出した音は、風に乗って流れていく。

 その声を漏らすことなく聞きとってゆく。

 心を落ち着かせるその声は、体力までも癒してくれる。

「(響け。)」

 風の流れを変えながら、出来るだけ歌が掻き消されないように、遠くまで届くように。

 この一時が延々と続くなら主を捨てても構わなかった。

 そんな事さえ考えてしまう程、その声だけでほどけられたらしい。

 やがて、風に歌だけでなく毒の霧がゆるりと流れていく。

 その口からは歌を、その手からは毒を。

 まるで薔薇のようなことをする。

 歌も毒もまだ途切れない。

 途切れないで続けて欲しいという欲が、風を歌を運べるように優しくしてしまう。

 毒が届くかはわからないが。

 それでもいっそいいだろう。

 響け

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