第15話 己

 猫の耳を頭に生やしたのがこの世が初めてではない。

 と、いうか完全に猫やってたし、進化したといえばそうかもしれない。

 人と猫が合わさっただけだが、ただの猫だというのよりマシだろう。

 前々世くらい昔の話だ。

 未だに才造サイゾウがその話を覚えているのだから、案外感情のある忍である。

 根っからの忍のクセに、心をあらわにするなどまた面白い失敗をするものだ。

 元伝説が現伝説と相討ったのも笑い話になる。

 その行き先が今度はこの世だ。

 願望としては伝説さんにもこの世に来て、声を聞いてみたいなんてことを考えてみる。

 材料の皮を剥きながらクスクスと笑う。

 忍か猫か人間ひとか、ハッキリしないおのれも中々面白い話だとは思うが、己をネタに喋るのはあまり好きではない。

 夜影ヨカゲ、という名の前に一つまた名付けられた名があったのに、誰も知らないなんて悲しいことだ。

 どちらにせよ、本名なんざ本人が知らないんだから同じこと。

 何処から現れていつから飼われてっていうのを才造も知らない。

 己は才造も伝説さんも子忍の頃から知っているというのに。

 一体己の最終話は何処に落ち着くやら。

 そうこう考えている内に料理は完成し、あとは盛り付けるだけとなった。

 どうせ机の前に座るのは呼んでから少々かかる。

 今呼んでしまおう。


 血の繋がりを探して血を飲む己を誰か、名を教えて呼んで欲しい。

 いつか、最終話を迎えられるように。

 もう転生を繰り返さないでいいように。

 誰か息を止めて。


 無い声が叫ぶように頭に浮かんだ。

 皆を呼べば酷く傷んだ。

 返事が返ってくるのが嫌になった。

 それでも元気な声が耳を貫く。

 いちいちんでらんないでしょ。

 思考停止させて笑う今日も今日とて

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