第14話 前々世からこの世まで

 初めて会った頃は夜影ヨカゲは代々飼われる黒猫でした。

 と、言いましても普通の黒猫ではなく、その猫専用の刀を持ち、あるじと共に戦場へと向かう等といった変わった猫でした。

 人の言葉を理解し、主を守り、主の傍を離れないその様子はまさに護衛中の忍のようで、餌も主の手からのモノ以外は一切口にしませんでした。

 不老の猫だと主のお父上ちちうえ様からは聞いております。

 猫が何処から現れ、いつからこの家に住み続けているかは最早もはや知る人も居ない程に遠い昔から生きているようで。

 ワシが出会ったのは主の護衛のにんを受けた時のことでした。

 その頃はまだ、夜影に名は無く主でさえ夜影を名で呼ぶことはありませんでした。

 夜影、と名を付けたのは、ワシです。

 勝手にそう隠れて呼んでいますと、次第に黒猫はワシの手からでも餌をやれる程度には距離が縮まりました。

 しかし、忍風情しのびふぜいが主の猫に勝手な真似を致すのは許されないと決まっており、それも猫は理解していたようで、主の前ではお互いに変わらぬよう振る舞っておりました。

 しばらく共に過ごしますと、今度はワシを見て習得したのでしょう、忍術を幾らか扱えるようになり、戦場でも活用し始めました。

 ですが、ある戦で夜影は主を庇い、死にました。

 ワシはその戦にらず、話でしか聞いておりませんが、夜影は帰って来ないまま、死体すら行方知らず。

 それもそのはず、その死体を探す主も夜影の死んだのち、首を斬られお亡くなられました。

 主の首は代々その猫が持ち帰ると聞いておりましたが、お互いに持ち帰る者を失ったせいでしょうか、誰も死体を拾い埋葬するという手も無いまま……。

 ワシが幾ら探しても、どちらの首も見つかりませんでした。

 名を呼ぼうと、返事は帰らぬというのに何度も夜影を呼びました。

 その時の記憶はしっかと残っております。

 今考えてみますと、忍として可笑しい行動をとってしまったと思っております。

 それから暫く過ぎ、季節が二つ通り過ぎていきました。

 主の首…いえ、頭蓋骨ずがいこつが門の前にそっと置かれておりました。

 その頭蓋骨の傍には、夜影の刀が地に刺しておりまして、これを持ち帰ってくれた者が誰なのかということは正しくはわからず、ですがワシには夜影しか浮かばず………。

 不老といえど不死ではないことは承知しょうちしておりますが、もしかすると、という思いが離れないというのは初めてでした。

 それから数年経ちました。

 新たに若い忍が雇われました。

 その忍の名は、夜影。

 その忍と猫が同一だということは、後々のちのち気付くこととなりました。

 何せ、夜影の性格は今と比べれば真反対でしたから。

 それからまた忍として共に過ごすこととなりまして、夜影は雇われてぐ、忍隊のおさに組み込まれ…。

 というように、詳しいことは本人でしかわかりませんが、このように長く共におります。

 生死を過ぎてまでまだ共におるのですから、不思議なものですが今更これ以上のことはありますまい。

 長々と申し訳ありません。

 以上となります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る