第12話 一時我を忘れて

「これで最後なんだってね。」

「発散でもしてるのかお前は。」

「いんや、そのつもりはないけど。なぁんか興奮しちゃって。」

「あまり呑み込まれるなよ。お前の暴走を止める自信はない。」

「えへへー、気を付けますって!」

 相手が現れた瞬間のこと、夜影ヨカゲはふと直感的だが相手が術者であると思った。

 おのれが扱えるのは忍術と妖術だが、どうやらまた別のモノが目の前に立っているようにしか見えない。

 魔術と結界術といったところか、そんな雰囲気だ。

 妖術を使えば魔術や結界術と似たことは出来る。

 ゆえに、生前結界術には手を出してみたことがある。

 結果を言えば習得はしていない。

 だが、初歩的な結界なら頑張れば作れるといったところか。

 それなら妖術で作った方が強力なのだが。

 面白そうだ。

才造サイゾウ。一切手出ししないで。一人で殺る。」

「了解。」

「ちょいと外すわ。」

 夜影の足元の影がユラリと上がり、夜影の周りを揺らぎ始める。

 影から勝手に出てきたのは妖刀で、夜影はそれを手に取った。

 才造は後ろへ下がり腕を組んで見ている。

 妖刀の柄に手を添えて態勢を低く構え、息を止めた。

「あら、挑戦的ね。」

只者ただものじゃねぇことくらいわかるぜ。」

 バクもライカも構え、夜影と向き合う。

 開始の合図を聞いた途端息を吸ってバクの方へと走り込んだ。

 バクは結界を張り、自身を守りつつ夜影を結界で閉じ込めた。

 しかし、夜影はこれだけは心得ている。

 柄から離したこの手を組んで結界を切った。

 結界の壊す方法だけはちゃんと習得しておいたのだから。

 だがそれくらい想定内だったであろう、ライカが作り出した魔法陣が夜影の足元にあった。

 それを気にせずに走り抜けようとした時、氷のトゲがそこから生み出され、夜影を包み凍らせた。

 けれどもそれはほんの少しの間。

 氷にすぐさまヒビが入り、バキンッとその左手が外へと出た。

 その左手からヒビは大きく広がり、氷の中からの脱出は速いものだった。

 だが既に結界が氷ごと張られていたところから察するに、氷ごと夜影を潰す気だったのであろう。

 その結界を夜影が切る前に、潰される。

 それでも、その攻撃さえも無傷で抜け、バクへ妖刀を振り下ろしたのには流石に驚いたらしかった。

 結界に潰されなおまだ無傷の理由がわからない。

 潰される瞬間に影潜りの術で結界に潰されなかっただなんて気付けたのは才造くらいだ。

 何せ、相手も観客も忍術というものどころか忍を知らないのだから。

 どうせ同じ術を使っていても強い方が勝つ。

 結界だってそう。

 妖術から生み出された結界だろうが、結界術から生み出された結界だろうが、力の強さと精神の安定が条件のようなものである。

 ライカは顔をしかめて火の玉を夜影に向けて打つ。

 その火を受けてなおそのまま突っ込む。

 夜影に意識などとうに無い。

 我を忘れて獣がごとく戦うのみ。

 ライカは急いで巨大な魔法陣を作り出し、炎を打った。

 その炎に呑み込まれ、夜影の姿は見えない。

 バクがそれに加えて5重の結界を張り、即、潰した。

 黒いペンキをバケツでひっくり返したように影が広がった。

「今、ちょっと期待した?」

 影から静かに姿を現した夜影は首を傾げた。

 影が全てを吸収し呑み込んで、夜影の防具に少々かすり傷がついたってくらいしか与えられなかった。

 夜影は妖刀に妖力を注いで鋭さを増させ、目を閉じた。

「殺す。」

 殺気を含めた声で呟いた後、カチリと鞘にしまう音がした。

 バクが倒れたのはその後のことだった。

 ライカの首が夜影の手に落ちたのはそれから三秒程過ぎた後だった。

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