第10話 抜刀才影 其の弐

 ライチがどんなに本気になろうとも、才造サイゾウはまったく変化を見せない。

 才造が面倒そうに切り払い、連続で切りつけた。

 防ぎきれず受けてしまい、勢いで後方へ吹っ飛ばされる。

 観客は歓声を上げて盛り上がる。

 抜いた毒針を片手に、夜影ヨカゲは観客をチラと見た。

 見世物にされるのは好きじゃない。

 どうせなら、相手より先に客を切り捨ててしまいたいものだ。

「俺の毒を舐めるなよ!」

 ランスのような紫の毒々しい武器を夜影に向けてハックは突進した。

 夜影はそれを見て急遽武器を増やすことにした。

 霧を集めて濃くし、そこから武器を生み出す。

 これが異世界で手に入れた能力かと言えばそういうわけではない。

 元から持っている術である。

 ハックが一度武器を引き付け、突くモーションに入ったところで夜影は刀を全て引き抜いた。

 指と指の間に挟めるようにして、片手に数本ずつ持つ。

「本当はこういうの好きじゃないんだけどねぇっ!」

 それを振り上げハックへと向かっていく。

 ガッキィィィンッッ!!!

 耳に痛い武器のぶつかる音が響く。

 片方を横に引き付けハックを切りつけ直す。

 それを防いだのはハックの盾だった。

 双方共に後方へ下がる。

「あは、いいねぇ。久しぶりな感じ。」

 夜影は思わずそう呟いた。

 それはどう見ても戦いを楽しんでいる以外ない。

 別に元々戦うことが好きだというわけではないが、どうも興奮してはしゃいでしまっているだけだ。

 何がそうさせているのかは不明だが。

 すぐさまハックへと走り込む。

 ハックはランスを地面に突き刺した。

 と、夜影の足元から巨大なトゲのようなものが現れ、防ぎようもなく夜影の体を貫く。

 ただ、それで止めることが出来る相手ではなかったのが結果だろう。

 その刀を振り上げてハックへとぶん投げる。

 的確にハックの心臓と首、足首、腹等をそれぞれ貫いた。

「お馬鹿さん。ちょいと術でも如何いかがかな?」

 ドクンッとハックの中で鼓動が大きく鳴った。

 それは止まない。

 心を抉られるような激しい痛みが内から繰り返す。

 ハックは動けない。

「心の底から壊してあげるかんね。」

 いつの間にかハックの目の前に夜影が立っている。

 しかし、トゲには夜影がまだ残っているのだ。

「さてさて、いつから分身と入れ替わってたか、わかるお人様はいるんでしょうかね?」

 ハックの心臓を貫いている一刀を手に取るとそのまま横に斬った。

 刀の血を払って、影に沈めた。

 手で霧を払うとハックに刺さっていた残りの刀もトゲに刺さったままの夜影もドロリと影になって消えた。

 抜刀ばっとうせずとも殺せたが、さて忍の趣味は

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