第9話 抜刀才影 其の壱

「そろそろこの忍刀が恋しくなるよ。」

「刀に愛着湧くのか?」

才造サイゾウは冗談ってものを覚えようか。」

「お前の悪趣味がなくなったらな。」

「そりゃ残念。なくなんないわ。」

 忍刀を影から抜き上げ、逆手に構えた夜影ヨカゲは赤い片目を光らせた。

 すると周囲に薄い黒い霧が漂い始めた。

 才造は背中から忍刀を抜き、夜影の斜め前に立つ。

「今度のやっこさんはそうとう美味なんじゃない?」

「加減は幾らだ?」

「半分も要らない。」

「了解。」

 二人が武器を構えれば、対する二人も武器を構える。

 開始の合図と共に風を斬った。

 カチッと鞘に忍刀をしまう頃に相手のハックがグラリと倒れこんだ。

 もうそこには夜影はらずライチに向かって斬りかかっていた。

 ガキィィィン!!と、嫌な音が響き渡る。

「ぐっ…。」

 ハックは腕を抑えてなんとか立ち上がった。

「才造、ミスったの?」

「悪い。手が掴み損ねた。」

「珍し。」

 ライチの武器を切り払ってくるっと回して手を持ち直し、柄頭でみぞおちを突いた。

 スッと才造の元に戻り、手を掴んだ。

「才造、血で滑るんでしょ?」

「いつもなら早く乾くんだがな。」

「この血貰ってあげる。」

 黒い霧が才造の手を濃く覆い、息を吹き掛け霧を払えば血は跡も残さず消えていた。

 片膝ついて唸るライチにハックは目配せした。

 才造の斜め後ろに下がって忍刀を弄ぶ。

「見計り出来たか?」

「うーん、違和感。もうちょっと才造落としていいよ。」

「そうか。なら、呼吸で数えろ。」

「六秒でお願い。」

 この会話の意味が理解出来ないのが残念だ。

 それもそのはず、前世でもこの会話が理解出来る奴はこの二人だけで、この二人独自の感覚の表現でモノを言っているのだ。

 ライチらは武器を少々変化させた。

 ハックはカギヅメのようなものを片手につけ、毒針をもう片手に用意する。

 ライチはその武器片手に空いた手には小刀を持つ。

 そしてライチが素早く夜影の斜め後ろへ回り込んで攻撃を加えようとした。

 が、夜影はそんなの無視して瞬間に姿勢を低くして前へと、ハックの方へと向かって瞬歩しゅんぽで移動する。

 と、同時に才造の刀がライチの武器とぶつかった。

 毒針を飛ばし、遠距離攻撃で夜影の態勢を乱そうとするが、避けようとも防ごうともしない。

 刺さろうが未だ刀を前に出さず。

 ハックがカギヅメで攻撃を仕掛けてそれには刀がぶつかった。

 ザシュッ

「クソッ。」

 ハックは後方へ下がる。

 夜影は刺さった針を引き抜いて、落とした。

「お前…何で効いてない!?」

「いやぁ、何ででしょうねぇ?」

 からかうようにそう答える表情はやはり笑みが浮かんでいた

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