第4話 今を知る
屋根の上に見たこともない服装の猫と狼がいた。
狼は黒いマスクで表情はわからないが、猫の方は中性的な顔だ。
何やら会話をしているようだが聞き取れない。
試しに声をかけたが気付いていないようで、まったく返事もしないし目をこっちに寄越さない。
何故屋根の上になんか登っているのだろうか?
まさか何か企みでも持っているのかもしれないし、そういうつもりはないだけかもしれない。
話を聞きたいが降りてこないので、無理矢理落とすことにした。
「なぁ、アイツらをムチで落とせないか?」
「出来るわよ。」
そう言ってムチを使って二人に向かって飛ばしたが、サッと避けられてしまった。
その反応の良さと身の速さは興味を惹かれる。
背中合わせになって何か会話を挟んだ後、指を組んだので何か仕掛けてくるかと身構えた。
だが仕掛けるどころかボフンと煙を巻いて消えてしまった。
「おい、アレはなんだ!?」
「知らないわよ!あんな能力!」
「探すぞ!!めっちゃ気になる!!」
「皆に伝えとく。まだ配置についたままだから。」
そう言われたら一人で探すしかない。
跡形もなく消えた二人がまだこの街に居てくれることを願いつつ 、街の中を走った。
そしてやっと見つけたその背中に突進するが、彼らは直ぐに気付いて一瞬で俺を捕らえた。
首に変わった形の武器をあてられる。
「殺すんじゃないよ。」
「わかってる。まだ殺しはしない。」
手慣れている様子のそれは暗殺の仕事でもしているのかと思わせる。
「答えな。あんたは何のつもりで…才造!」
問うつもりだった言葉を捨ててそう声をかけた。
すると俺を捕らえていた狼はスッと消えて猫の側に現れた。
「おい、大丈夫か?」
「あ、あぁ。なんとか。」
仲間だ。
助かったぁ……。
狼が舌打ちをしてまた別の武器を構えたが、猫がそれに手を置いて止めさせた。
殺意は無い、ということだろうか。
「お前ら、何者だ?」
問うた声に目を細めて後退りをする様子は、答える気は微塵もないとわかる。
「俺はただお前たちの話を聞きたいだけだ。」
「話?」
「そうだ。珍しいというか初めて見るものだから、興味が湧いてな。」
猫と狼は目を一瞬合わせた。
それだけで何か伝えあえるというなら、能力なのかそれとも他の何かか。
「取り敢えず、俺達のアジトに来てくれないか?」
「攻撃仕掛けられてそう簡単についていくお馬鹿さんが何処に居んの?」
「それはすまなかった。声が届いていないようだったから。」
狼は武器をしまって腕を組んだ。
そして猫に顎でくいっとこちらを指す。
猫は狼に首を振って腰に手を当てた。
無言の会話で何か言い合っている。
「じゃぁ、条件付きで行く。」
猫がそう答えた。
「その条件って?」
「そんなの決まってるデショ。金。」
「か、金!?」
「人の時間奪っておいてまさか無料で話だけ聞けると思わないでよね。情報料取るに決まってんでしょ。」
そういう猫の後頭部をバシッと狼が叩いた。
「お前は馬鹿か。んなもんは後でいいだろ。」
「痛いっての。ってか必要じゃん!」
「休む宿代わり、食付きが条件にすりゃいいものを。」
「嫌だよ、知らない奴らのとこで休めるか!!」
「敵軍の城の屋根裏で寝てた奴が言うか?」
言い合い…いや喧嘩が始まってどうしたらいいかわからない。
仲間に振り返ってみるが首を振られた。
「と、取り敢えず、金と休む部屋と食い物を用意すりゃいいんだな?」
そう口を挟むと、二人は黙り込んだ。
少しの沈黙の後、猫は尻尾をいじりながら頷いた。
狼はまるで「(やれやれ)」とでもいうように溜息をつく。
アジトに案内し、椅子に座らせる。
「あ、あのさ、やっぱ金はいい。」
「そうなのか?」
「お前がこういう時に遠慮するとは珍しいな。」
ボソリとそう狼が呟いたのに、キッと軽く睨んでから、咳払いする。
「で、何が聞きたいって?」
「まずお前らのその格好、見たことがないんだが。」
「そりゃそうでしょうね。」
「何処から来たんだ?」
「さぁて何処から来ましょうか。」
ツンっとそういう猫の尻尾をいじって遊ぶ狼は無言を貫く。
というか、話を聞いてないように見える。
「あの技といいあの身の速さといい、一体何者なんだ?」
「いや、そんくらいわかると思うんですけどねぇ。」
チラと狼に目をやりながらそういう。
狼はやっと俺に目をやった。
その目は冷たく、まるで感情がないようだ。
「忍って言ったらわかります?」
「しのび?何だそれは。」
「あっ。」
猫は何かに気付いたようで顔に手をあてた。
「まさかここには忍ってもんがないのか……。」
「?」
わからない。
しのびという物は初めて聞く。
何やら少し考えて溜息をついた。
「わかりました。ちゃんと全てお話し致します。」
猫背をピンと伸ばして姿勢を正した。
狼はそれをどうこう言うわけでもないし、反応は示さない。
猫が語る話は少々信じ難いものだった。
しかし、猫は真剣な顔で自分の状況を言っているのだ。
忍というものは何か、自分が何処から来たか、そして、今の状況は。
その間も狼が喋ることは無かった。
「…です……。」
「な、なるほど。」
「今すぐ理解しろとは言いません。ただ、この国の事を教えて下さい。」
丁寧に頭を下げた猫に頷いた。
教えてやれることは教え、猫の理解は早く、その間、狼もしっかり話を聞いてくれているようだった。
「では、こちとらはやはり死んだ、と。」
「俺が思うに転生というやつだろう。」
「なら、帰ることは出来ないということですね。」
主がいると言ったがそれにしては案外平気そうな顔をしている。
狼に至っては表情一つ変えず、まったく喋りもしない。
「大丈夫なのか?」
「いちいち病んでられませんからね。そんなもんですよ。忍は。」
「そうか…。」
猫はまた笑んだ。
この二人の真逆のようで同じようななんとも例えがたい様子はきっとバランスが良いのだろう。
お互い声も交わさずとも察しあえるのだから。
羨ましいものだ。
「さて、何かお手伝い出来ることはありませんかね?」
「え?」
「礼ですよ礼。宿にご飯付きで話を教えて貰ったってのに、何も無しで消えるのも申し訳ないですからね!」
「うーん。そうだなぁ。」
猫の手も借りてみるとするか
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