第2話 転生した二息

 目を開けると、見覚えもない森の中だった。

 手に感触があるのに気付いて握り締めたままの手を見下ろす。

 そこには彼、才造サイゾウが横たわっていた。

 血もなく怪我はかすり傷すら見当たらない。

 あの雨は何処へやら、青い空が木々の間から覗いている。

 小鳥の羽ばたく音がやけによく聞こえる。

 周囲を見渡している内に、ふと視界に入った動く紐のような毛が生えた二本の何かに気づいた。

 首を傾げて観察してみるに、尻尾のように見えるが、それを辿ってみるとおのれの尻から生えているようだった。

 試しに触れると確かに感触を感じる。

 もう一度才造をよく観察すれば、才造には三角の耳が頭に、そして犬か狐のような尻尾がついている。

 黒いそれは多分付けているのではなく生えているのだと思う……。

 ここまで冷静に観察して溜息をつく。

「取り敢えず一旦寝よう。夢かもしんない。」

 しかし普通に考えて可笑しいだろう。

 ついさっき死んだ奴が、これは夢だと言って寝ようという時点で、じゃぁさっきの痛み苦しみはなんだったのか、となる。

 しかもこの状況で再び寝てみようというのは呑気過ぎる。

「何処なのここ。天国?天国って尻尾とか生えちゃうモンなの?何その決まり。意味わかんない。」

「ワシらが行くべきは地獄だと思うがな。」

「だよね。可笑しいもんね。あんだけ人殺しといて忍が天国行けるわけないじゃんね?って、起きてたの?」

「お前の独り言に目が覚めた。」

 ゆっくりと起き上がりながらそう答える才造は黒い耳を動かした。

 普通なら驚いていいことなんだろうけど、最早もはや驚けない。

 取り敢えず、お互いの状態については確認しておく。

 才造は狼の耳と尻尾。

 己はどうやら猫又ねこまたというやつだ。

 忍に獣が足されただけってことか。

 忍術が使えなくなったとか、そういうこともない。

 忍道具が消えたかといえば、消えたものもある。

 そりゃ、苦無くない手裏剣しゅりけんといった程度の武器はあるし、忍刀もある。

 ただ持ってないものが増えたっぽい。

 それが何かと言えば能力らしきもの。

「おい……説明書とかないのか?」

「あってたまるかそんなもん!いきなりんなもんあってみ?完全に面倒な方向のやつじゃん!!」

「もう既に面倒なことなってんだろうが。かわらん。」

 何かを忘れているような気がしてならない。

 ないものがあるにしては、違和感がない。

 そう、慣れてはいないはずの何かに慣れている体がある。

 それを思いつつ口には出さなかった。

 くだらない会話をしつつ森から抜けてみようと木をつたいながら走る。

 始まりの一歩

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