異世界の二息に最終話は無シ

影宮

第1話 忍の最終話

 雨が死体を濡らす。

 血は雨に流されて、刃の微かな音は掻き消される。

「終わりか?」

「どうだろ。生憎の雨だからね。聞こえにくくて。」

 わざとそんな会話をしてみる。

 耳には雨音が入り込み、お互いの声がやっと聞き取れるくらいだ。

「生憎、か。普通なら都合が良いんだがな。」

「こんな酷い雨、普通でもお断りなんですけど。」

 背中合わせで相手を目で探す。

 気配を消して潜む敵は、おのれよりも僅か上だということはわかっている。

 だからとて、生きて返すことは許さない。

 その命だけは道連れにしてでも消す。

 そのつもりだ。

 風が唸った。

 その瞬間冷たい感触が腹に伝わった。

 得たと笑んだ顔を、きっと相手は見えただろう。

 首に噛み付いて、刃で心臓を貫いた。

 それでもお互い止まらないのは、己のあるじの為。

 深く深く歯を立てて、猛毒を与える。

 それと同時に己の血を相手に浴びせる。

 相手の血が己に飛ばないようにそっと抉りこんだこの刃から手を離した。

 倒れた相手の息の根を止めようとしたこの手にはもう、感覚は無かった。

「ねぇ、生きてる?」

 そう問うた声が届いたかは知らない。

 ただ答えは見て確認することとなった。

 倒れ込んで、手を伸ばす。

 笑いながら無表情の彼の手を握る。

「あんたが盾になったから殺せたなんて、嫌な終わり方だったよ。」

 もう喋らない彼にそう呟いた。

 死ぬ筈なのに、まだ息絶えないのは腹を貫かれたからだろう。

 彼は一息で殺されたのに。

 そんな失敗を犯した相手のお陰で殺せたこともわかっている。

 それでもやはり、楽に逝きたいものだ。

 やっと、

 雨音が遠のいていく。

 視界がぼやけていく。

 狐の雨だったらいいのに、と思いながら意識も遠のいていく。

 苦しさが和らいで、世界が黒一色に染まる。

 冷たく何も無い。

 しばらくして、耳に小鳥の鳴き声が通った。

 最終話は何処だ。

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