6:はじめてのおいらい
「じゃあ3人ともそろったところだし、もう一度話をまとめましょう」
席を立った初実は壁際に立てられていたホワイトボードに人の名前を書いていった。風良早和、初実香音、片谷瞬、そして秦野亮一──最後の名前は初めて聞いた。
「秦野亮一。私の彼氏なんだが……最近どうも上手くいかなくて悩んでいたんだ」
早和さんはどこか遠い目で窓の外の景色を眺めながら呟いた。俺も振り向くと、リア充の群れが抱き合って愛の路上ライブで盛り上がっている……やめたれや。
しかし彼女にもやはりお相手がいるとは……俺の早和さんと過ごす一夜という夢は一瞬にして崩れ去ったのであった……。ちなみにあえて夜にしたのに深い意味など無い。お、俺が夜型だから自然とそうなるだけであって……!
「そこで私たちが関係修復のためのお手伝いをしようってわけよ」
やはり後悔してもしきれない……この俺がリア充どもの味方をするなど、心にもないことだ。
「どうして苦い顔をしているの? 昨日あれほど犬みたいに喜んでたじゃない。『俺女の人にご奉仕するの大好きなんで! 買い物のパシリでも足の裏ペロペロでもなんでもやります!』って」
「いつからそんな変態に!? そんなこと言った覚えは──」
「おおおお! やる気があっていいじゃないか! いい仲間を見つけてきたな香音ちゃん!」
勝手に盛り上がっている早和さん。普通こんな奴隷思想の男を連れてきたらドン引きすると思うんですけどね……。もしかして早和さんも変態? あ、もって言ったけど俺は違うぞ。
何も言えなくなった俺をよそに、香音は涼しい顔で早和さんと秦野亮一の名を線で繋いだ。
「付き合ってからどのくらいでしたっけ?」
「半年だな」
「仲が悪化してしまったのっていつ頃からですか?」
「あれは……2月の初めくらいかな?」
「ということは、その少し前に何かあったんでしょうか?」
初実は慣れた感じで早和さんから話を引き出すが、不思議と作業的という雰囲気ではなく、親身になっているような温かみを感じる。
「なんだろう…………あ、そういえばあの頃は同性の友達とよくデートしていたな」
「ん? デート?」
妙な言い方が気になって口を挟んでしまった。すると早和さんは両手を広げてみせて口早に、
「あ、いやいや違うんだ! なんていうかその、言い回しの違いだよ!」
あぁなるほど。女子と男子は友達との距離の取り方ちょっと違うもんな。例えばバレンタインの友チョコとか、男同士だととても想像できないやつだ。
「ということは私の予想だと、秦野さんは相当な構ってちゃんなんじゃないですか……?」
「そういうことだろうな……私が遊んであげなかったのを気に病んで……」
それは多分相手が相手だからだろう。俺も早和さんが彼女だったら毎日でもデート行きたいし。初実だったら週1くらいに留めとくけど。なんか色々と疲れそうだから……。
「片谷くん、どうして私と早和さんの顔を見比べてるの? 彼女候補の品定めでもしてるわけ?」
「いやいやいやそんなこと……!」
なんでそんなに目ざといの!? 怖いんですけど……。
「昨日も言ったけど、別に私を狙うのは止めはしないから。だけど相手がいる人を獲物にするのはどうかと思うよ?」
「は、はーい……」
初実様のおっしゃる通りでございます……正直強気で攻めればワンチャンとか妄想していました……身の程知らずでごめんなさい……。
「そろそろ話をまとめましょう。片谷くん、今週の土曜はどうせなんの予定もないんでしょう?」
「なんで暇な前提なんだよ!?」
必死に否定すると初実は物言いたげに顔をむっと近づけてきた。……怖い。綺麗だけど怖い。
「……あぁそうだよ。悪いか」
「でしょうね。独り身の週末なんてそんなものだろうと思ったわ」
自分も彼氏いないの棚に上げて何言ってんだ……そういえば初実は週末はいつも何してるんだろう。趣味も知らないし予想がつかないな。でもこんなプライベートなこと、聞いたら絶対「何? 片谷くん私に興味があるわけ? うーわ、まじキモい!」とかなじられそうだ。狙っていいとかいうのは所詮罠に過ぎない。
初実は今度は自身と俺の名前を線で繋げて、
「土曜日は早和さんカップルがショッピングモールに行くの。私たちはそれに連れ添って、寄りを戻せるように活気をつけてあげるのよ。わかった?」
「それってもしかしてタブルデートってやつじゃ……」
童貞メンタルを余すことなく発揮して慄いていると、初実は至ってクールな表情で、
「そうよ。男女で出かけるんだからデート以外の何物でもないでしょう。何か問題でも?」
そこは否定しろよ、いいのかよ俺なんかとのデートで……。
これだけきつい性格をしているくせに初実は恋愛というものに抵抗がないのだろうか? それはそれで厄介な話だな……。
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