5:S, M, L
翌日の放課後になった。
初実と約束していた部室棟の3階に集合しなければならない。
今日一日中、ほとんどのクラスメイトは近くの席の異性とペチャクチャ喋っていて授業なんてクソくらえという感じだった──にも関わらず、注意した先生は1人もいなかった。世界よ、これが南十星高校だ。
□ □ □
部室棟の前に来た。1年のとき帰宅部だったから入るのは初めてだ。
南十星高校は自由な校風を目指しているため部活の種類も多いらしく、確かにこうして見上げてみると隣にある校舎よりも高さがあるし外装も綺麗だ。
と、早速出入口からカップル様のお出ましだ……手を繋いでいるのでさすがに友達ということはないだろう。これでそうなら殴る。
「うわ、見てあの人珍しい……1人でいるよ」
「ほんとだな……2年生にもなって彼女も女友達もいないとかまじありえねーわ……」
「でもあんたには一生あたしが付いてるからね♡」
「オレだって絶対死ぬまで離さねぇから♡」
どうやら俺のネクタイの水色で学年がばれてしまったらしい。
あーあこの辺にサブマシンガンとか落ちてないかなー? そしたら本当に最後まで一緒にいるか試せるんだけどなー?
地面に落ちていた石ころを奴らの向こう脛の代わりに蹴り飛ばしながら部室棟に入った。
上の方から吹奏楽部の賑やかな音色が流れてきた。
吹奏楽部と言えばメンバーがかなり女子に偏っているイメージがあるが、この学校はどうなんだろう。
出会い目的の男子が多くて半々になっているかもしれない。そうじゃなければごく少数の男子が妬んでも妬みきれないような超絶ハーレムに浸かっていることになる。
どっちにしろ奴らは一度シンバルの轟音とともに破裂した方がいい。
2階に上がると、奥の方で初実が待っているのが見えた。スマホで誰かと電話しているようだ。邪魔したら悪いから少しここで待ってよう。
ん……? どっかの男子生徒が初実に話しかけてるんだが。
とはいえさすがは初実、完璧にシカトを貫いている。しばらくすると男は疲れきった様子でこっちの方に向かってきた。
電話が終わったようなので初実のところに行く。
途中男がすれ違いざまに「お前も同志か。あの女はやめといた方がいいぜ……」と忠告してきたが──誰が狙うかよ! ナンパ野郎なんかにあの堅固な初実が落ちるか! 男一人で歩いてるだけでナンパ扱いってほんとなんなんだこの学校……。
俺が近くまで来ると初実は涼やかに微笑みながら手を小さく振ってくれた──やっぱり綺麗な人だ。来たかいがあったってもんだな!
「来てくれたのね! あんなこと言ってたからてっきりすっぽかすかと思ってたわ」
……余計な毒舌を吐いてくるのも相変わらずだ。
「そりゃあな。どんなに嫌でも約束は約束だ」
「まだ嫌とか言ってるのね……もうすぐ依頼者の美少女が来るというのに」
「美少女だとっ!? 何年生? どんな人?」
「……はぁ…………」
思わず特別感に溢れた3文字に興奮してしまい、ゴミを見るような目でため息をつかれた……あぁそうか、ここにも美少女はいたんだったな。忘れてて悪かったよあはははは……。
「とりあえず中で待っていましょう。さっき電話で呼んだからもうすぐ来るはずよ」
けっこう上手だが無機質な字で「恋愛協力部」と書かれた紙が貼ってある扉を開けて、さっさと入っていってしまう初実。未咲さんと違い手を繋いで連れて行ってはくれないらしい。……あ、本来それが普通だったわ……。
部屋に入ると目の前に大きめの四角い机があった。パイプ椅子が3つ用意されており、俺らは机の向こう側の2つに並んで座った。
狭めの部屋で男女2人きりになってしまった。
「………………」
「………………」
…………気まずい。昨日知り合ったばかりだし何を話せばいいのかわからない。
初実の方はというと、そもそも俺なんかには話しかけるつもりないオーラが出ている。同じ「………………」でも大違いだ。
居心地の悪さも頂点まで来たころ、ようやくノックの音が響いた。依頼者が来たようだ。その人も異性だと聞いているのになぜだかほっとしてしまう。
初実がどうぞーと声をかけると扉が開いた。
「お待たせしたな!」
初実が言っていた通り、入ってきたのは確かに美少女だった──というより、美お姉さんと言った方が正しいかもしれない。
お姉さん要素その①:学年
胸元のリボンが未咲さんと同じ真紅に染まっていることから、3年生であることがわかる。
お姉さん要素その②:髪型
煌びやかな金色の髪をポニーテールにして、流麗に腰の辺りまで下ろしている。これほど髪が長いと、人生経験も長い年上というイメージがなんとなくある。
そして最も重要なお姉さん要素その③──
「でっけぇ! ぐへぇっ!」
素直な感想が漏れてしまい、隣に座っていた人から強烈な横腹チョップを受ける。
彼女のそれは今まで見た誰よりも──未咲さんよりも豊穣だった。もちろん初実などとは比べるまでもない。
……てことは今の攻撃は僻み? かわゆ。
「君が香音ちゃんの手伝いに来たという片谷瞬くんか! 私は風良早和だ、よろしくな!」
「シェアッ! よろしくお願いしますっ!!」
これまでになくテンションが上がってしまうのは男の性だ。「シェアッ」ってなんだよ。ウ〇トラマンかよ。またはSNSかよ。
新たに知り合ったおっぱい……じゃなくて早和さんからの依頼──彼女のためならどんな内容でも頑張れる気がした。俺単純すぎだろ。
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