4:聞いているのかいないのか

 しかし、本当にあんな約束をしてよかったんだろうか……?

 やっぱり他人の恋愛問題にわざわざ立ち入るなんて気が進まないなぁ……絶対納豆並みにネバネバドロドロしてるだろ。例えがおいしそう。

 

 どんよりとした気持ちで家に帰ってリビングに入ると──

 

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

 

 足音で帰ってきたことがわかったようで、俺より先に挨拶をしてくれた。

 

 妹の希・ぴちぴちの中学3年生。

 ソファにだらーっと寝転びながらスマホをいじっていて、ブラウンショートカットの小さな頭が揺れている。

 

「あれれどうしたの? 浮かない顔してるけど」 

「スマホ画面見てるのになんでわかるんだよ」

「もうっ、そこは褒めるところでしょ。『わかってくれるか、さすがは俺の妹だ! 感動したから今度プリン1ダース買ってやるよ!』ってね」

 

 本当に褒めて欲しいならその無機質な板状の物体から目を離してちゃんと兄ちゃんの顔見て話そうな?

 

「それただプリン1ダース食べたいだけだろ。1ダースって……どんだけ好きなんだよ」

「てへへ、ばれちゃったか……さすがは希のお兄ちゃん! 妹のことはなんでもわかっちゃうからね!」


 俺が褒める前に希の方から褒めてくれた。なんか可愛い。

 いや、流石になんでもはわからない。例えば希に今気になる人がいるのかどうかとか……おっと、そんなことはどうでもいいんだ。どうした俺、希の恋愛模様なんてほっとけばいいものを。

 

 そんなことより希、さっきからずっと一体何をポチポチやっているんだ。ちょっと覗き込んでやろうか──

 

「で、今日は学校で何があったの? 包み隠さず話してくれていいんだよ?」 

 

 おいおい何しようとしてたんだ。いくら妹でも女子のスマホを覗いたりするのはよくない。俺の悩み事を聞こうとしてくれる優しい子になんてことを!

 ……でもあの事話してもいいんだろうか?──まぁ特に隠す理由もないよな。

 

 恋愛協力部とやらの活動をさっき知り合いになった初実に手伝わされることになったと伝えた。だが単なる茶番っぽかったお見合いのことは説明が面倒なので伏せておいた。

 

「なるほど。まずお兄ちゃんなんかに女子の知り合いができたっていう時点で嘘っぽいけど……。多分その初実さんって人は、キミには全然興味ないよ」

 

 ……前半部分、なんか言われたがスルーしておくとして。

  

「なんでそうなる? それならわざわざ俺を誘ったりはしないと思うが」

「つい昨日まで赤の他人だったんでしょ? それでいきなり仕事を手伝わせるなんて、ただお兄ちゃんを利用してるだけだと思う」

「そ、そうかな……」

 

 約束に尻込みをしてか細くなった俺の声を聞くと、希はダーク感にあふれる声で忠告してきた。

 

「恋愛モデル校の生徒なんだったら、こういうのもっと勉強しないと生きていけないよ? 落ちこぼれのまま死ぬよ?」


 うぅぅぅ……うまく言い負かされたような気がする。確かに俺は今日この日も女子と上手くやっていけた覚えがない。

 希の言い方はきついが、実際このままだと本当にお先真っ暗なのだ。頭が鉛のように重くなる……。

 

「なんかもう、自分の部屋行くわ……」

「待ってお兄ちゃん!」

「なんだよ?」

 

 振り返るとそこには、ようやくスマホをやめた希が両人差し指を突き合わせ、赤面フルフェイスの上目遣いで──

 

「でもいざとなったら、希がお兄ちゃんと付き合ってあげるから…………」

「断る」

「はああああああああああああっ!?」

 

 …………俺にそういう趣味はない。

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