2:甘ーい出会い
滑らかで艶のある髪。ピアノの黒鍵のようにも見えるそれは肩まで流れ、窓から差し込む光を浴びて可憐なハーモニーを奏でている。
凛とした目、鼻、口の趣き。ソファに座って相対している俺を決して寄せ付けない──そんな空気を感じてしまうほどに綺麗だ。
リボンが水色だから同じ2年生なのだろう。
……おいおい、また美人かよ。ちょっとフラグ立ちすぎだろ。ラブコメ主人公でもあるまいし。
「この機会を逃したら一生彼女ができないまま中年になり老人になり、そのまま人生を終えることになるかもしれません。それくらいの危機感を持ってお見合いに臨んでくださいね?」
未咲さんが彼女を呼びに行ったとき、こんなことを優しい笑顔で言われて俺は不安に打ち震えた。
そして今は緊張で膝が震えている。こんなすごい美少女とお見合いだなんて、そりゃあこうなる。
欠点といったらただひとつ、胸のサイズが遠慮気味なことくらいだ。
ん? いや何を言ってるんだ俺は! これに関しては大は小を兼ねないというのは常識だ言い換えれば愛らしいとも言える未咲さんの方はというとうまく均整が取れていてこれもまた美しい将来2人を遥かにしのぐ量の人がもし現れればそれもまた一興要するに全おっぱいis正義!
ふぅ……それにしても南十星高校でこのレベルの女子に相手がいないなんて信じがたい。
もしやこのお見合い、なにかの罰ゲームとかなんじゃないかと疑い、俺らを観察するように立っている未咲さんの表情を窺ってみる。
「どうしました?」
すぐに目線を机に戻した。一見笑顔だが、その周りで暗い紫色のオーラみたいなものがうねっているように見えて怖かった。やっぱり本気だった。
これはもう、ないコミュ力の全てをかけて戦うしかなさそうだな……。
「それでは始めましょうか」
未咲さんは紙パックのいちごミルクを2人の前に置いて開始を告げた。
(軽いなおい! 一応お見合いだろ、お茶とかじゃないのか?)
相手の女子も同じことを思ったのか結んでいた口を少し緩めている。
ふざけてるのか真面目なのかよくわからないよ未咲さん……まぁ少し緊張ほぐれたからいいけど。
「飲めるかな……」
ん? 今なにか聞こえたような……まぁいいや。俺から自己紹介をして始めようか。
「えーと、片谷瞬です。2年生です。趣味は、えーと…………読書と音楽鑑賞です。今日はよろしくお願いします」
あぁ……失敗したなこれ……ただでさえ容姿も平凡なのに、こんなのでいい第一印象になるわけがない。
ちゃんと彼女の目を見て話せなかったし、読書って言ったのは漫画やラノベだし、音楽はアニソンとかで、あまり人に堂々と言えるものじゃない。詳しく教えてって言われたらどうしよう……。
そんな残念ながらも一応本気でやった自己紹介を聞いて彼女はどう反応するかというと──
体ごと未咲さんの方を向いていちごミルクを吸っていた。
「会長、少し言いにくいんですけど、お茶の方がよかったかも……私甘いものそれほど得意じゃないので」
「あっ、そういえばこの前そんなこと言っていましたね! 申し訳ないです……」
完 全 無 視!
「あの、ちょっと……俺は……?」
「別に会長を攻めるつもりはないの。わざわざ飲み物まで用意してくれて、むしろ嬉しいです」
「わあぁ……わたくし幸せです、
「ふふふっ、今日も大げさですね!」
……………………。
……これお見合いだよね? なんで主催者の人とずっと話してるの?
とりあえず初実香音という名前と、甘いものが苦手だということはわかったが……。
2人の話を聞いていると、学年は違えど元々知り合いと友達の間くらいの仲で繋がっていたように見える。
「初実さん、わたくしのことはもういいですから、彼の話を聞いてあげてください」
あれ? 俺に話題振ってくれてる? 一体どっちの味方なんですか会長……。
それを聞いた初実は部屋の中をぐるっと見渡してから冷たい表情で、
「彼? 何言ってるんですか。この部屋には私と会長しかいないじゃないですか」
──幽霊扱い。
なんなの? そんなに俺とお見合いするのが嫌なの!?
……だよな、無理もない。俺だもん。
はぁ……結局今日もまた異性に相手にされなかった。やはり人生を大きく飾る恋愛なんてものがそう簡単にいくわけがないのだ。
現実に直面した辛さをごまかすため、いちごミルクを一口すする。ウワースゴーイアマクテオイシイー。
未咲さんはお見合い主催者としてどちらの味方をすべきか悩んでいるのか、2人の間で視線をウロウロさせている。
だが初実にお見合いの意思がないならどうしようもない。
ここで今俺ができることといったら……未咲さんを助けることくらいだ。早いとこ失敗したお見合いを打ち切ることだ。
高校生活はあと2年もある。なにも本当に今回しかチャンスがないわけじゃないだろう──そう信じることにした。
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