恋愛協力部におまかせあれ!
希月 由
第1章 落ちこぼれにもチャンスあれ!
1:生徒会長は美人お嬢様風に限る
カップル、カップル、カップル。
始業式の体育館は、リア充という名で美化された煩悩に支配されし者達に埋め尽くされていた。
その中で1人寂しくぽつんと座っている生徒を見つけたとしたら──きっとそれはこの俺、
彼女いない歴16年、童貞。
今時ごくありふれた経歴のはずだが、この学校の生徒としてはどうしようもない落ちこぼれであった。
「新2年生・3年生の皆さん、おはようございます」
3年生の生徒会長・
だがそれは独り身の俺も例外ではない。
「桜の香り漂い始めた春休み、いかがお過ごしでしたでしょうか。わたくしの方はここ最近──」
計算されたかのような目鼻立ち。俺などには一生手も届きそうにない。
姿勢のいい背中に向けて絹糸のように流れるカールのかかった白い髪は、窓から入る春の優しい光に照らされ妖艶さを放っている。
長々と説明したが、要するにめちゃくちゃ美人……!
と、彼女の声色が変わって本題に入るような雰囲気になった。見とれてないで聞かなければ。
「──皆様もご存知の通り、我らが私立
彼女の言う通り、この高校では実に98%の生徒が在学中に彼氏・彼女を作ってしまうという話で、国により「恋愛モデル校」という称号が与えられている。
ほとんどの卒業者はいずれそのお相手と結婚するらしく、少子化に苦しむ国としても望ましい校風として評価されているのだ。
このまま卒業してしまえば俺、わずか2%しか産出しないレアメタルになってしまう。コバルトやニッケルもびっくりだ。どうすんだよまじで……。
「こうして皆さんの仲睦まじい姿を見ていると、わたくしも幸せです。恋愛モデル校としての名に恥じない、本当に素晴らしいことだと思います。これからも生徒一丸となってこの良き伝統を受け継いでいきましょう! わたくしの話は以上です」
……ん?
最後、会長と目が合ったような気がしたんだが気のせいか?
もしかして俺だけ一人寂しく座っていたから逆に目立っていたとか。なにそれ、すっごいきつい……。
再び丁寧なお辞儀をして去っていく生徒会長。
その横顔は、どことなく思いつめているような感じがするものだった。
おいおい、これはどう考えても彼女とのフラグでは!?
うんうんそうに違いない! うっひょおおおおおやったぜええええええ!
……なんなんだこのテンション。
□ □ □
始業式の後、何事もなく学校が終わった。
初日ということでちゃんとした授業もなく、まだ割と早い時間だ。
いい意味では平和だったが、悪い意味では誰とも会話を交わすことがないという素晴らしい1日だった。
(天才だな俺! さっすが落ちこぼれだぜー!)
……全然褒め言葉になってない。
進級の流れで自然と離れたカップルもいるはずなのに、放課後の教室は無駄話を楽しんでいる男女ペアで溢れている。
こんな景色になってしまうのは、この学校の生徒がまず異性から友達を作っていくのが当たり前だからだ。俺なんて同性でもままならないというのに……。
現実のはずなのにここまでリア充という名の亜人ばかりだと異世界転生した主人公みたいだ。大丈夫? ジャンルエラーにならない?
まったく、こんな邪の空間さっさと出ていこう──
「片谷瞬さんですね?」
教室を出た瞬間、ある生徒に話しかけられて驚いた。
学校では今日初めての人との会話になる。だってぼっちなんだもん……。
「どうしました……?」
……おっと、見とれてぼーっとしてしまっていた。生徒会長でしたか。え? もうフラグ回収?
「生徒会長ほどのお方が俺に何の用ですか? ……というかなんで俺の名前を知っているんです?」
美人を前にした緊張で声が出ないかと思ったが、彼女が話しかけてきたという事実に実感が湧かなく、かえって落ち着いて喋ることができた自分に驚く。
普段からこうだったら苦労しないのに……。
「話は後で。とりあえず生徒会室まで来てください」
──その時、俺の腕に柔らかい感触があった。
(え、え……!?)
生徒会長が俺の手をしっかり握って引いていた。
「何するんですか生徒会長!?」
「生徒会長じゃなくて名前で呼んでください?」
いたって純粋な微笑みをかけてくる。それもまたお美しい……。
「ほんとに言ってるんですか……? そういうのはカップル同士で──」
「男の人皆にそう呼ばせているのです。別に呼び捨てでもいいのですよ?」
どうしてそんなに攻めてくるんですか……恋愛モデル校生徒代表としての威光出しすぎですよ?
□ □ □
校舎3階の端にある生徒会室に引き入れられた。
大きな白い長机、その両端にソファが並んでいる。よく掃除されているのか綺麗な部屋だ。
「どうぞお座り下さい」
え〜、もうしばらく手を……いやなんでもない。
未咲さんは棚から何かのファイルを取り出してきて、俺の正面に座った。
胸元についている、3年生であることを示す赤いリボンがよく見える。
密室で2人きりになってから気づいたことだが、なんだかやたらといい香りが漂ってくる。頭がクラクラする……。
ファイルの中の資料を一読すると、三咲さんは俺の顔を真剣に見据えて話を始めた。美人すぎて視線を安定させられない……。
「片谷さん、イエスかノーで答えてください。あなたには今彼女がいませんね?」
「ぶふぇっっ!」
な、何を話し出すかと思えば! いきなり一番気にしていることを……。
結局三咲さんのような人でも非リアの心はわからないということなのか……。
「『ぶふぇっっ!』とはなんですか? イエスかノーかで答えてといったはずですが」
「イ、イエス……その通り、悲しい独り身です」
「そうですよね、可哀想に」
全然慰めているように聞こえない。あくまで仕事ですからみたいな塩対応だ……。
未咲さんは一度席を立って窓や扉の閉まりを確認するような仕草を見せた。
そして俺に顔を近づけて囁くように言う。だから距離感近いって……。
「このファイルには生徒1人1人のとある情報が記載されているのですが、新2年生ではあなたのところだけ空白だったもので……気になって確認してみたのです」
それ、絶対恋愛関係だろ。噂好きな女子がよだれを垂らして欲しがるやつだ。もし流出したら全クラス学級崩壊もありえるやつだ。
ていうか俺だけってなぁ……いかに異性に縁がないかを直接突きつけられたようなものだ。今すぐここで泣いていいですか会長……。
「片谷さん、わたくしたち生徒会の仕事を知っていますか?」
急に改まったような口調で質問してきた。一体なんの話だろう。
「生徒の学校活動を統率したり、補助したりする……みたいな?」
一部の学校だともっとすごい権限を持っていたりするが、ここは無難な回答でいいだろう。
「その通りです。そしてその仕事は、生徒全員の幸福という根本的なものをわたくしたちが願ってこそ成り立つものなのです」
なんだか回りくどいいい方だな……結局俺がここに呼ばれた理由はなんなんだ?
「そういうことであなたには、今からお見合いをしてもらいます」
「……へ?」
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