戦ってこい 05

 小降りになった雨の中を、クリスはアゲハに家まで送ってもらった。

「何から何まで、本当にありがとうございます」

「いいのいいの。とおるがクリスを気にかけたんだから、アタシにとってアンタは何ていうか……弟みたいなもんなの!」

 斎藤さいとう達から逃げるのに必死だった時には気づかなかったが、アゲハの運転はかなり乱暴だった。アシストグリップを命綱いのちづなのように握りながら、クリスは後部座席に座る。

 シートベルトさえも頼りなかった。

「それよりどうするの?ダンス部の奴らはきっと、アンタを停学中ずっとつけ狙うわよ。家から一歩も出られなくなるんじゃない?」

「そうかも知れませんね……でも」

 もともとは自分でいた種だ。自宅でも勉強はできる。

「家から出なくても、勉強はできますから」

「ダンスの練習ができないでしょう?」

「え?」

「どうせ透のことだから、アンタに課題を出したんじゃない?アンタのダンスは夏祭りのしか見てないから分からないけど、セットムーブがあれだけじゃあバトルで戦うのは厳しいもの」

 さすがの観察眼だった。

「そうですね。セットムーブを増やせ、って言われました。でもそれも自分の部屋でできることですし」

「自分の部屋で!?どうやってよ」

「姿見を見ながら……」

「アンタバカ?バカっていうか引っ込み思案?せっかくアタシと出会ったんだから、もっと色々やり方を考えなさいよ」

 やり方、という言葉を聞いてクリスは彼女の言わんとしていることがすぐに理解できた。しかしそれはあまりにも図々ずうずうしいもののように思えた。

「いや、あの、でも……」

「デモもジャガイモもないの!」

 バックミラー越しに、アゲハと目が合った。その目つきは真剣そのもので、まるで初めて透から向けられた視線そのもののように、クリスには感じられた。

「ガキは甘えられるときに甘えればいいのよ」

「……僕はガキじゃないです」

「そうやって不貞腐ふてくされるところがガキなのよ」

 赤信号に、自動車が止まった。ワイパーは動いていたが、雨はもうほとんど止んでいた。

 バックミラー越しに見つめるアゲハに、クリスは決心して言う。

「時間が空いているときでいいので、アゲハさんのダンススタジオを使わせてください。お願いします」

「良いわよ、明日の朝一で来なさい。お姉さんがいーっぱいシゴいてあげるから」

 アゲハは満面のみだった。

 信号が青に変わる。

 急発進するヴェルファイアに、クリスは思わず首をいためそうになるのだった。


 ◇


 クリスの自宅の真ん前にヴェルファイアがまる。

 アゲハとスマホのアドレスを交換し、自宅の周囲にダンス部の連中がいないことを確認すると、クリスは急いで自宅へとけこんだ。

「見送りとかいらないから、すぐさま家に入っちゃいな」

 アゲハはどこまでも優しかった。

 アドレスを交換したときに、自分のスマホにとんでもない量の通知が溜まっていたのをクリスは見ていた。それらは全て、太陽たいよう涼人りょうとの二人からのものだ。

 玄関から自室へ駆け上がり、涼人の番号に電話をかけると、すぐに通話状態になった。

「おい、クリスァ!お前今どこにいるんだ!?」

「オジサン達めっちゃ心配したんだぞ!」

 やや離れたところから太陽の声も聞こえた。

「二人ともゴメン!まさか斎藤さいとうと会うとは思ってもいなくって」

 事情じじょう顛末てんまつをクリスが説明すると、スマホの向こうの二人は関心するように息をゆっくりと吐いた。

「お前なあ、マンガの主人公かよ」

「ねえねえ、そのアゲハって言う人、綺麗なの?後で写真送ってよ」

「太陽、お前そんなんだからモテねえんだぞ」

「それは涼人も同じだろ!」

「ああ!?」

 クリスの説明に安堵あんどしてなのか、二人が口論こうろんを始める。スマホの向こうでなごやかにくち喧嘩げんかをする二人に、クリスもまた安堵した。

「あ、そうだ。荷物と自転車、オジサン達が預かってるよ」

「立て替えた昼飯ひるめしだいと交換だこの野郎」

「ハハハ、ごめんごめん。本当にありがとう」

「何を笑ってんだテメェこの野郎ォ。昼飯代、倍額ばいがく払え」

「良いね!オジサンと涼人に同額払ってもらおうよ」

「分かったよ。払うから、できれば明日の朝一番あさいちばんに家まで届けてくれないかな?」

「朝一番に?どうしてよ」

 アゲハに朝一で来るように言われたのもあったが、ダンス部の奴らに見つからないようにしたい、というのが一番だった。

 極力きょくりょく、二人にはこれ以上の迷惑をかけたくない。

 だからこそ、迷惑をかけるのはこれで最後だという気持ちがあった。

「まあ、いいや。分かった。明日の朝一番な。寝てたら叩き起こすからな」

「オーケー。家の前で待ってるよ」

 通話を切ったスマホは、少し熱をもっていた。クリスはそれを両手でいのるように持つと、電源を切った画面にそっとひたいをつけてつぶやいた。

「……ありがとう」


 ◇


 翌朝。クリスのスマホにメッセージが届いたのは、朝の五時だった。

 今から届けに行くから顔を洗って待っていろ。と、涼人から送られてきたのを見て、クリスは飛び起き、顔を洗って玄関前に立った。

 ちょうど、太陽と涼人のやって来るところだった。

「ごめん、待ったァ?」

「ううん、今来たところォ。今来たところォじゃねえんだわ!」

 クリスのボケに涼人のノリツッコミがえる。

「こっちだってこんな朝一番に来るとは思わないんじゃ!」

「あァん!?クリスが朝一番に来いっつったから朝一番に来たんだろ!」

「ふああ。涼人はねえ、起きてこなかったら昼飯代を三倍にしてもらおうとか思ってたんだよお」

 太陽はまだ眠そうだった。

「セコい。セコすぎる」

「うるさいわい!俺らが心配している間に年上のセクシーお姉さんと知り合いやがって!お前なんぞもう知らんわ!」

「確かにそれはうらやましいよねえ」

 セクシーなお姉さんなのは確かだったが、色々あったすえの奇跡のような偶然だ。クリスにとってはほとんど不可抗力ふかこうりょくでしかない。

「まあでも、これでクリスもようやく世界にばたけるのかあ」

 半分目を閉じたままの太陽が言った。

「……どういうこと?」

 むにゃむにゃと口を動かす太陽の代わりに、涼人が答える。

「これでも俺たちは、お前のダンスにかける情熱を認めてるってことだよ」

「そうそう」

 涼人に差し出されたリュックをクリスは受け取った。

「別の高校になってからの、二戸にとちゃんの苦労はオジサン達もよおく知ってるから」

「だからよ、その苦労がこうしてみのったのは、俺達も嬉しい」

「そうそう」

 リュックを差し出した手が拳になって、クリスの肩を叩く。

「頑張れよ。俺らは部活動もやってないし、運動が得意なヤツみたいに学校でヒーローになることは無かった。今もそうだ。勉強して、とにかく大学に入って、苦労して就職する」

「甲子園で優勝することもないし、オリンピックに出て金メダルをとることもない。でも、二戸ちゃんは違う。ダンスがあって、色んな人に認められて、輝くステージに立てる」

「お前はさ、ヒーローになれるよ」

 涼人が、歯を見せて笑った。

「そうそう。二戸ちゃんがヒーローになれるって信じてるから、オジサン達も頑張って手伝ったんだよ」

 目を細めて、太陽が笑った。

「次の『あきばるは~ら』には、お前も出るんだろ?観覧には行けないけどさ、こっちで念を送ってやるから」

「がんばえー、ファニエルがんばえー、ってね」

「……ありがとうな。俺、頑張るよ」

 朝日よりもまぶしい二人の笑顔に感化かんかされて、クリスも笑顔になった。

 太陽と涼人の二人は、感情がどうしようもなくたかぶったときにクリスの一人称が「僕」から「俺」になるのを知っていた。

 意外とクリスは泣き虫だ。これ以上イジメると、きっとクリスは感極かんきわまって泣いてしまうだろう。だから、涼人は涼やかな顔に戻って言うのだった。

「まあそれはそれとして、昨日の昼飯ひるめし代を払ってくれ」

「あ、それと分かってると思うけど、次回の『あきばるは~ら』は、センター試験の次の週だよ」

「あっ……」

「知らんかったんかい」

 クリスがその場で頭をかかえてくずちるのを、太陽と涼人は互いに顔を見合わせて困ったように笑った。


 ◇


 夏期講習期間が終わって夏休みが明け、クリスの停学期間も終わりを告げた。

 停学から復帰した後もダンス部による報復ほうふくは続くかもしれない、とアゲハは危ぶんでいたが、どうやら杞憂きゆうだったらしい。

 ダンス部自体も、停学や退学、部活が廃部になるような行動は避けたいらしく、よって停学期間と言うグレーな時期を使ってクリスをいいようにあつかいたかったらしい。土下座動画も、クリスに言うことを聞かせるための一端だったが、思いのほかクリスにダメージが入っていないので、肩透かしを食らったようだ。

 学校へ通うようになっても、クリスはアゲハのダンススタジオへ通うのをやめなかった。

 壁一面の大きな鏡は、クリスのダンスのスケールを大きくした。

「そりゃあ、今まで姿見を使ってダンスの練習をしていたのなら、ムーブがちぢこまるのもうなずけるわね」

 体の前面ぜんめんでしかダンスをしてこなかったクリスは、スタジオを借りて練習することによって、フロアの広さを学ぶことができた。

 また、アゲハはスタジオを自由に使わせるだけでなく、時間があればクリスに指導を入れさえした。

「アンタには人に見られているっていう意識が足りない!」

 アゲハと共に鏡と向き合い、自分の動きがどれだけ粗野そやかというのを自覚させられた。直すべき悪癖あくへきだと糾弾きゅうだんされる。

「タッティングは指先まで意識しないとキレイに見えないのよ!」

 髪の毛一本から爪先まで見られているという感覚。ほんの少しでもクリスがおこたれば、たちまち頭を引っ叩かれた。

 ダンスを教えるのに、アゲハは慈悲じひ容赦ようしゃもない。小学生相手にはさすがに手をあげることもなかったが、高校生の男子を相手にすれば話は別だとばかりに、アゲハは暴力をふるうこともあった。

 指導は厳しく、過酷かこくだったが、どの指摘してきまとていた。引っ叩かれ、忠告された点を直すたびに、クリスは自身のダンスのグレードがみるみる上昇していくのが分かった。

 そして、当然のようにタダでスタジオを毎日自由に使わせたり指導を受けさせたりするほど、アゲハもお人好しではなかった。

 アゲハは、ダンス教室の子どもたちに勉強を教えるようクリスに命じた。

「クリスは城磯しろいそ高校でも頭の良い方なんでしょ?だったら、小学生に勉強を教えるくらい、なんてことはないわよね」

 ダンスの練習にやってきた小学生に勉強を教えるのは、意外と難しかった。中には言葉がきちんと伝わっているのかも怪しい東南アジア系のハーフの子もいる。そういう場合、クリスは勉強を教えることそのものよりも、どのように言葉を選べばいいのかを考える方がずっと大変だった。

 もちろん、自分の勉強をおろそかにすることもできない。

 中学生の時には、両親にワガママを言って城磯高校に入学することを説得した。母親はその条件を飲む代わりに、クリスに必ず国立大学に合格することを約束させた。

 クリスは言いつけを守り、城磯高校で常に三指さんしに入る成績であり続けた。

 特に数学と物理に関しては常にトップの成績をとり続ける。むしろ、高校に入学してからの方が勉強を頑張り続けたのが奏功そうこうして、この時期にダンスの練習に多少の時間を取られても何とか成績を落とさずにやっていけるのだった。

 そうして、学校とアゲハダンス教室と自宅とを往復する毎日は、目まぐるしく過ぎていった。

 ダンス教室に通う小学生達ともいつしか仲良くなり、いつの間にかクリスは「センパイ」と呼ばれるようになっていた。

「夏祭りの時、センパイのダンス見てました」

 ある秋の休日の夕方、高学年組の一人が、鏡を見ながらセットムーブの練習をするクリスに話しかけてきた。

「アンナちゃん」

 アンナは、トテトテとクリスの横に立って、見よう見真似のキングタットを披露ひろうした。

「おお、僕と同じ動きだ」

「エヘヘ」

 はにかむように笑うと、えくぼの可愛い少女だった。普段はアゲハの指導の下で、激しいレゲエダンスを踊っているが、ダンスをしていない時のアンナは、むしろ他の子達に比べるとずっと大人しかった。

「夏祭りの時のセンパイのダンスを見て、スゴいなあって思って練習し始めたんです。レゲエダンスと音の取り方が少し違うので、あんまり練習すると混ざるぞ、ってアゲハ先生には言われているんですけど」

「そうなんだ」

 アゲハは、教えるのが上手うまいと自称していただけあった。言葉を選ばないと伝わらないようなハーフの子達にも、手本を一回見せるだけで理解させる。むしろ、言葉よりもダンスの動きそのものが、彼女の言葉でさえある。

 力強いダンスだ。

「あの……アタシも、センパイみたいに、人の心を感動させるダンスができますか?」

 アンナが、真剣な眼差まなざしでクリスを見つめる。

 口元を一文字いちもんじに引き締めてジッと見上げる少女の瞳に、アゲハと同じ魂が宿やどっているようにクリスは感じた。

「できる。アンナちゃんなら、絶対にできるよ」

 クリスはそう言って、アンナの頭をゆっくりとでた。

 アンナは顔の周りに花を咲かせたように喜ぶ。そこに、入口の方からアゲハが声をかけてきた。

「アンナー。お母さんがおむかえに来たよー」

「はーい!今行きまーす!」

 頭に置かれたクリスの手を両手で持って、いとおしそうに自分の頬に近づける。そのアンナの仕草にクリスはドキッとしたが、すぐに少女は両手を離してあどけない少女の顔に戻り、チョウのようにひらひらとダンススタジオの入口へ去っていった。

 その少女の後ろ姿をぼんやりと見ていたクリスを、子ども達の送迎そうげいを終えてダンススタジオに戻ってきたアゲハが見つけて、ニヤリと笑った。

「あらあ?クリスくんはロリコンだったのかな?」

 その言葉に、ハッと我に返る。

「ロリコンじゃあ無いです!……アゲハさん、アンナちゃんは着々とアゲハさん似の小悪魔になりつつありますよ」

「それは良いことだわ。男を手玉てだまに取ってこその女ってモンよ」

 豪快に笑うアゲハの姿は、さながら女海賊のよう。この女傑じょけつのようなレゲエダンスのスペシャリストも、子どもの時は何か苦労をしたのだろうか。

 そんなことをクリスが考えていると、不意にアゲハが語りかけた。

「それより、今日はゼロ次予選でしょ」

「あっ、そうでした!」

「そうでした!じゃあ無いわよ。ほら、パソコン貸してあげるから」

 アゲハに連れられてリビングに行き、ノートパソコンを立ち上げると、クリスのスマホに着信が入った。

『よお、ニトクリス。元気にダンスしてっかあ?』

 ライジンだ。

『今日がゼロ次予選だってこと、忘れてないかと思って電話したんだが、どうだ?大丈夫そうか?』

「今思い出して、アゲハさんにパソコンを借りました」

 自分のパソコンを何の抵抗もなく人に貸し出せることにクリスは驚きはしたものの、きっとスマホの方がこの女傑にとってはよほどヤバいものが入っているのだろうというのも容易に想像できる。

 スマホをハンズフリー状態にしてノートパソコンの隣に置くと、スピーカーからよく通るライジンの声が聞こえた。

『なんだ、アゲハのダンススタジオにいるのか』

「そうよー。言われた通りにずっとセットムーブを考えているわ、この子」

「もうすぐ記入フォームが開きますよ!」

 ゼロ次予選。それは早い者勝ちの一次予選にエントリーできるかどうかという戦いだ。チーム名と、出場する二人の名前、それぞれのダンススタイルをエントリーフォームに記入して送信。今回の『あきばるは~ら』では、予選がツーサークルで行われ、その定員はひゃくチームで埋まる。

 百チームを超えた場合、そのエントリーチームは登録の早かった順にキャンセル待ちという状態になり、急用などで当日参加できなくなったチームの代わり、つまりオブザーバーという形になる。

 フォームが開く日時は主催者側で事前に発表されている。アクセス集中の中をいかにかいくぐってアクセスするかがカギだ。

 エントリーは、ブラウザを開くことができればスマホでもパソコンでも可能。クリスはパソコンの方が使い慣れていた。

「そういえば、チーム名はどうするの?まさかまだ作ってないなんてことは無いわよね?」

 更新ボタンを定期的に押すクリスに、アゲハが問う。

「チーム名は、もうライジンさんと一緒に考えました」

『おう』

 クリスとライジンは定期的に連絡をとっていた。それもそのはずで、ライジンは自身が出した課題をクリスがきちんとこなしているかを確認する必要がある。週末になるとクリスは自身の新しいセットムーブをアゲハのダンススタジオを借りて録画しては、ライジンに宛てて送っていた。

 その時ついでに、二人のチーム名も決めていたのだ。

「あっ!ゼロ次予選始まりました!」

 更新ボタンを押して、フォームが開いたことを確認すると、クリスは慣れた手つきで必要事項を記入していった。

「それで、チーム名は何て言うのよ」

 もったいをつけられて、アゲハの言葉も刺々しくなる。

「『ミラーズアンド金槌ハンマー』です」

「ミラーズアンドハンマー?何ていうか……普通ね。どういう意味なの?」

 一言ひとことで説明するのは難しかった。

 記入を終えたクリスは送信ボタンを押し、これでとりあえずゼロ次予選は完了。あとは結果を待つのみになる。

『ハンマーは、俺のことだな。ダンサーネームの元になった神話に出てくるトールは、ハンマーを主な武器として戦うんだ』

「ふうん?男の子ってそういう神話とか好きよね。それで、鏡の方はクリスなの?」

「そうですよ。ダンサーネーム、と言うかまあ本名がニトクリスなのはご存知ぞんじの通りですが、こちらはクトゥルフ神話が由来ゆらいですね。ニトクリスの鏡は、そこに地獄のような暗黒世界をのぞき見ることのできる鏡とされています」

「あんまりクリスっぽくはないわね」

 そう言われるとクリスにはぐうの音も出ない。

 鏡が金槌より先であること、それからわざわざ外国語にしたのは、似たような名前の美少女戦車アニメを元ネタにしているのだが、アニメにあまり詳しくないライジンに説明しても反応はかんばしくなかった。ましてやアゲハが理解できるとも思えなかったので、この場では言わずにおいた。

「ミラーズアンドハンマー、略称ミラハンって感じです」

 リアルタイムで更新されるエントリー表を固唾かたずを飲んで見守っていると、チーム名が表示された。クリス達はどうやら無事にゼロ次予選を通ったらしい。

 リストの十九番目に表示された「鏡と金槌」の文字を見て、とうとう自分もあきばるは~らに出場できるんだ、とクリスは心を昂らせた。

「良かったわね」

 モニターを凝視ぎょうししてよこしまな笑みを浮かべるクリスに、アゲハや優しく微笑んだ。

『こっちも確認した。……ニトクリス』

「はい」

『出場するからには、勝つぞ』

「……はい!」

 厳しくも温かい関係で結ばれたライジンとクリスの二人の様子を、アゲハがうらやましそうに見つめていた。

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