Ep.2

蒼依を呼ぶ時、昔はあーちゃんと呼んでた。だが、高校生にもなってその呼び方は何となく恥ずかしいと感じる。

案の定、僕がそう呼ぶと、彼女は嬉しはずかしで顔を真っ赤にして照れた。そして直ぐに手で覆う。その様子を見て、僕もさらに恥ずかしくなり、只でさえ赤くなっていた顔を更に赤らめ、口元に手の甲を当てて隠すように少し俯く。

そんな中、悠樹だけは顔をニヤニヤさせて、僕達をジロジロ見つめてくる。


「ふーん、へぇー、知らなかったなぁ。まさか、黎が昔蒼依ちゃんのことをそう呼んでたとはねぇ。てことは、くーくんとか、くーちゃんて呼ばれてたのかなぁ?」

「…………別に。」

「教えてくれてもいいだろう?なぁ、蒼依ちゃんは黎のこと、なんて呼んでいたの?」

「……せ、先輩に教える必要性はありません。あと…黎……くん。やっぱり恥ずかしいから、呼び捨てでお願いします……。」


顔を赤らめたまま悠樹を罵倒するが、声は小さい。


「う、うん…。その方がお互いに良さそう、だよね。」


そう返事をした後、一度落ち着くために深呼吸をする。


「ちぇっ、つまんねーの。せっかくお前の弱点を知れるチャンスだったのになぁ。」

「…僕でからかうとか、50年は早いよ。」

「…………っ。そうですよ。先輩は大人しく弄られ役に回って、罵られていて下さい。永遠に。」

「あーあ。さっきの蒼依ちゃん、可愛かったなぁ!あ、俺もあーちゃんって呼ぼうかな

!そしたら、その度に顔を真っ赤にして…」

「たとえ先輩にそう呼ばれたとしても、赤くなりませんし返事しないで無視します。」

「えぇ!そんなこと言わずにさ!あーちゃんともっと仲良くなりたいなぁ。」

「黎くん、久しぶりのここの味どうだった?」


蒼依は、宣言通り悠樹を無視して僕に話しかけてくる。

彼女と普通に会話できるのには少し時間がかかると思っていたが、この短時間で出来てしまっていることに拍子抜けする。彼が一緒だったからだろうか。


「美味しかったよ。また来るね。」

「え、ホントに無視された!?どんだけ俺の事嫌いなの!!?」

「うん、ありがとう。今度は一緒に食べよう!おすすめ沢山あるし、もっとお話したいし。」

「え、ちょ、無視しないで、蒼依ちゃぁん…(泣)」

「…なら一生私のことをあーちゃんとは呼ばないでください。これは忠告です。(ニッコリ)」

「じょ、冗談がキツい…………。」


本当、二人の会話って漫才みたい…蒼依の方はちょっとキツいけど。


あっという間に時間が経ち、蒼依の休憩時間がもう終わりだという事だったので、ついでに精算を済まして店を出た。


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