Ep.2

「……………………………………………。」

「あんまり深く考えなくていいぜ。ただ、頭の隅に置いてて欲しいってだけだから。」

「………うん、分かった。ごめん、ありがとう。」


その後、暫く互いに口を開くことは無かった。



――数十分後。


「ありがとうございました!」


二人の無言を貫いたのは、休憩時間になったのか、僕達の席まで来た蒼依だった。


「お待たせ、黎くん。空いてる席にいいかな?」

「蒼依ちゃんおつかれェ!どうぞ、お好きな席に座って!」

「……ありがとうございます先輩、そして話しかけてこないで下さい。余計疲れるので。」

「労いの言葉に毒で返された!?」

「……………………あはは(笑)」


二人のやり取りに思わず笑ってしまう。

それに驚いたのか、少しの間とそれぞれの反応が返ってきた。


「……今、黎くんわらっ………」

「たよな!?」


僕は驚きと同時に後悔に似た何かが内側を巡った。


「いやぁ、びっくりしたぜ。でも、いい事じゃねーか。」

「……う、うん。そう、だね。」

「ホント、この短時間で何があったんだ?」

「さぁ……。僕にもそこまでは…。」


分かるか!と心で叫ぶ。


「だよなぁ…………。」

「うん…………………。」


そのまま自分の世界に入りかけたその時。


「…………あ、あのさ!昔のように呼んでも…いいかな…?」

「…ぇ?あ、うん…。好きに呼んで…。」


急に大きめの声を出した蒼依に一瞬驚く。しかしだんだん声が小さくなるのを感じて、彼女は彼女で思うところがあったのだと知り、カラフルに染まった風が心を通っていく。

きっと今自分の顔は、大変なことになっているはずだ。にも関わらず、珍しく悠樹は何も言ってこない。気を使ってくれているのだろう。…先程から顔を隠すように笑ってはいるが。


「…悠樹。何かあるならちゃんと言って。」


彼は、手でちょっと待ったの合図をして何度か深呼吸する。


「んーやっ、なんもねーよ?むしろ、仲直り?出来たみたいで良かったなぁって思ってたくらいだし。」

「ふーん……。」


ジト目で彼を見てから、今度は蒼依の方を見る。

彼女は心なしか嬉しそうで、同時に何故か寂しそうだった。


「……僕の方こそ、ごめんな。ずっと、っ………。」

「…名前。」

「……え?」

「名前で呼んで欲しいな。前みたいに。そしたら、許すことにする。」


こと、に含まれる意味までは読めなかったが、あの日あの時の僕の行動は、彼女を怒らせたのではなく哀しませたのだと気づく。


「…………ちゃん。」

「黎、今なんか言ったか?」

「…あー、ちゃん。」


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