Ep.2
悠樹が扉を開くと同時に、カランカランと心地良い音が鳴る。
「いらっしゃいませ〜。」
女の人の声が聞こえ、あれ?と思う。あいつの母親とは違うが、少し似た声。しかし、聞き覚えの無いようなあるような…。
「久しぶり、黎くん」
「いつぶりだ?2、3年ぶりだよな?おひさ!」
「…池ケ谷先輩、お久しぶりです。そしてそのまま帰って下さい。」
「え、ひどっ!扱い酷すぎる!」
……僕は声の主に気づいて、咄嗟に俯く。
「くろい…くん?あの時の事なら、気にしてないよ?それとも、私のこと嫌い…?」
頭が一瞬でパニックになり、返事が出来ない。どんな顔をしていいかも分からず、意志を逆らうかのように声が出ない。
「久しぶりなのにいきなり声を掛けられたらびっくりするだろ、普通。」
「池ケ谷先輩は普通に話しかけてきたじゃないですか。こちらは声を掛けてすらいないのに。」
「さっきまでチャットのやり取りしてたよね?!…なんで、俺、そんな雑な扱い受けてんだ……」
……さっきって、移動中か…?だからあんな顔をして…………。
未だ戻ってこない思考回路を、無理矢理引き戻そうとする。その間にも、二人の会話から新たな情報が大量に押し寄せ、混乱に混乱を重ねる様な形になった。
「そうだとしても、こうして実際に会うのは久しぶりです。なのに、なんで驚かないんですか?」
「そりゃそうだろ!時々連絡取ってりゃ、驚きも減るよ!」
「そーですか。私には関係ありません。」
「…なんで見た目の割にそんな毒舌なの…」
「私は先輩よりも黎くんとお話したいです。…嫌われているのは分かっていますが。」
……嫌っている訳じゃない。嫌いなのはむしろ……。
そう思っても、声には出せず、幼馴染と友人が連絡を取っていた事実にまたも衝撃を受け、未だに指ひとつ動かせない。
そんな僕の拘束を解いたのは、店の扉が開く音だった。
「いらっしゃいませ〜!今店の手伝いをしてるから、続きは後でね。休憩、もう少ししたら入れると思うから、その時に色々話そ?」
「う、うん……。」
ようやく自由になった体で、彼女に言えたのはそれだけだった。
しかし、それだけでも嬉しかったのか、一瞬笑顔を浮かべて後に来た人の対応へ行った。
僕らも、その場にいるのは他の人の邪魔になるからと移動して奥の方の席に着く。
「はぁー…。」
緊張状態が解れたのか、無意識に深い溜息をつく。
「…やっぱり、事前に話しておいた方が良かったか?」
「…………いや。どっちにしろ向き合えなかったと思う。固まることは無かっただろうけど。」
「そっか……。ごめんな。事情、知ってたのに。」
「別に謝る事じゃないだろ。悠樹には関係の無いこと……」
「関係ある。お前の友人だ。親友だ。それだけで、俺にとっては充分だ。」
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