Ep.1
不意に声を掛けられ、振り向きざまに警戒心をもったまま悪態をつく。
「急に声を掛けるなっていつも言ってる。」
「この前肩を叩いたら思いっきり無視したのそっちだろ?」
「…それにしたって、第一声にそれはないだろ。」
「いやぁ、最初は普通に声掛けようとしてたんだよ?ただ、お前の姿見てたら口からついポロッとな(笑)」
「………………………はぁ。」
ため息と同時に、更に何か言ってこようとするのを無視して再び目の前の文に目を落とす。
「無視するなよー!俺達の仲だろ?なぁ、おーい!聞こえてる?」
「…………………………。」
「おーい! ………。返事しないなら大声で名前叫ぶぞー!ひびやく……。」
「迷惑だから。周りにも僕にも。」
「無視しなければいいだけの問題だろ?」
無視しなければいいって……。
そんな問題じゃない。絶対。
――キーンコーンカーンコーン――
……いつもの半分も進まなかった。
予鈴とはいえ、午後の授業開始の予鈴は2分前に鳴るので無視出来ない。
「あ、もうそんな時間か!教室行こうぜ。」
ニカッと笑いながら言ってくるのが無性にムカつく。
「……悠樹のせいで全然進まなかった。後で迷惑代、飲み物奢りな。」
「え、飲み物奢りは酷くないか?!」
「それくらいは普通だろ。」
仕返しの意も込めた、皮肉めいた口調で返事する。
「それより、そろそろ午後の授業始まるから急いで行こう。」
「あ、はぐらかすつもりかよ!…って、もう1分切ってる!おい、待てよ!!」
未だ文句を並べているのを綺麗にスルーしつつ教室へ急ぐ。
遅刻は5分までで、それ以降、その授業は欠席の扱いとなる。次の授業の担当は時間にかなり厳しい、遅れる訳にはいかない。
5分というのは、教室はどの科目でも同じ場所だからである。それでいて欠席扱いになるのは、大学と同じようにしているから……と説明された。
中途半端な大学仕様、慣れるまでに時間がかかった。一年以上経った今でも、時々足元をすくわれる様な感覚に囚われる時がある。
――キーンコーンカーンコーン――
本鈴がなる直前に教室に滑り込み席に着く。
幸いと言うべきか、担当の教師は気づかなかったようだ。
最も、一番後ろとはいえ高い位置にあるので視界に入った可能性がゼロではないが。
「……ホント、いざって時のお前って足早いよなぁ。……はぁ、はぁ。」
いつの間に席に着いていたのか、と一瞬驚く。だか、息を整えるのに必死な隣人は、一言話しかけてきたあと暫く息を荒らげていた。
「お疲れ様。」
「…っ、あぁ。ホントに疲れた」
「疲れているのはいいけど、寝るなよ。」
「…………………。」
…はやっ、もう寝たのか。僕には全く関係ないけど。
――僕、日比谷 黎(ひびや くろい)は忠告はしてやったぞ、と口に出さずに言う。
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