第48話 闇の眷属
「ドラゴン・ブレス」
写真記憶男が叫ぶと、奴の前面に巨大な炎の竜が出現し、その開かれたアギトから俺たちが立っている玄関ポーチ全てを覆いつくす豪火が吐き出された。
しかし間を置かずして、庭木を薙ぎ倒すような暴風が突如吹き起り、炎を押し戻し、消し飛ばした。
間髪入れずに今度は地面から土の巨人が隆起して、こちらに向かって来ようとすると、たちまち頭から砂と化して崩れて行った。
と思えばその砂が大蛇となり鎌首をもたげると、今度は空から滝のように水が落ちてきて、砂の大蛇は土くれに戻り崩れ去った。
「き、貴様も写真記憶能力者なのか⁉」
写真男は口角に泡を浮かべ、卿に向かって叫んだ。
「ふ、とんでもない。そんな能力が無くても、これくらいは出来る」
うわ、相手にとって最大限に失礼なことをさらっと言ってのけてる。
だがしかし、写真男が疑問に思うのも当たり前だ。
瞬時に相手の魔法に適切な対抗魔法で切り返す。これはなかなか出来るもんじゃない、しかも相手がどんな魔法を使ってくるかわからないので、受ける方が圧倒的に不利になる。
いくら魔法陣や術式を記憶していても、発動させるには間が必要だ。写真記憶能力者でもなければ。それを、能力者と同等、いやそれ以上の速さで行うなんて。
「そんなに不思議なことでもないぞ? 私には悠久の時があるのだから」
確かに、繰り返し繰り返し魔法陣を記憶に焼き付けていけばそれは可能なのかもしれない、しかしその域に達するには、いったいどれだけの年月を要するのか。
「だいたいおまえの魔法はどれも練りが浅い。その能力を授けてもらって、まだ間も無いのだろ? まったく使いこなせておらんよ」
嘲るように、憐れむように、マグナス卿はいった。
「所詮、仮の能力。底が知れているわ」
「いわせておけばっ!」
写真男剣を抜き、は驚異的な跳躍でポーチにいる卿を急襲した。
だがしかし、振り下ろした剣の先に、マグナス卿の姿は既になかった。
「肉体強化による直接攻撃ならいけると思ったか?」
マグナス卿は庭の噴水の縁に腰掛けていた。
そして動けずにずっとそこで突っ立っていたクルップの幻影に話しかけた。
「お前なら、私の正体がわかりそうだが・・・」
「ま、ま、まさか・・・きさ、いや、あなた様は、しかし・・・」
「思い当たる節もあるだろう。そうさ、お前の主人たる、ザラツシュトラと同じ、この世で最も昏き闇の眷属さ」
「そんな・・・勝てる訳がない・・・」
「帰ってお前のご主人様に伝えよ。私は常に見ているぞ、と」
そういって卿はクルップに歩み寄り、幻影の胸に片手を潜り込ませ、その依り代となっている人型の木片を握り潰した。
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