第47話   お命頂戴致します

「マグナス卿、一番前に居る長髪男は、写真記憶能力者だぜ!」

 俺は一応、クルップの手下どもと対峙する卿に進言した。一番厄介な相手だしな。それにしても、独りで大丈夫なのか?

「へぇ・・・」

 まるで、あいつの大好物はあんパンですよ、って聞いたくらいの薄い反応だった。


 まだ夕日の残照が残ってる。そんな中でいったいどれくらい卿はヴァンパイアの実力を発揮できるのか。

 欧州で二回ほどヴァンパイアとやり合ったことがあった。お互い不死同士、かなり手強かったが、能力的には写真記憶の方が確実に上だろう。

 やっぱり俺が参戦した方がいいんじゃないのか? 加えて相手は多勢だぜ。


「まったく、少しは落ち着いてそこで見ていたまえ」

 マグナス卿は軽く溜息をついた。

 心が読まれた?

「だいたい、私がいつ、自分がヴァンパイアだといった?」

「え?」

「エナジー・ドレイン」

 確か、卿はそう呟いたと思う。

 途端に、周囲の空気が重くなった。いや、体が重くなったのか?

 胸のあたりに鈍痛が起こり、腹はむかついて吐き気がしてきた。

「もう少し、離れていなさい」

 顔を上げると、庭先に居るクルップの手下どもの体から、得体の知れない真珠のような光沢を持った靄が生じてきて、それがマグナス卿に吸い寄せられるように向かってきた。

「な、な、なんだこれは⁉ おまえいったいなにをしている⁉」

 写真記憶男は慌てふためいている。

 そして、卿は、その靄を、吸収している?

 手下どもがバタバタと地面に倒れていく。


「マグナス卿! 今すぐにそれを止めろ!」


 写真記憶男が絶叫し、電撃の魔法を放った。

 しかし雷光は轟音と共に、卿の眼前に広がった黒い空間に吸い込まれ、雲散霧消した。


「ふふふ、『エナジー・ドレイン』のせいで、よくヴァンパイアと誤解されるのだが、私は血を飲むなど下品なことはしない。直接生命力を吸い出すからね」

 な、なんだって⁉ そんな能力聞いたことねーよ。

 既に写真記憶男とクルップの幻影以外の手下は倒れ、地面に伏している。

 強制的に人間の生命力を吸い出すなんて、アリなのか?

 ん、だけどなんで記憶男だけは無事なんだ?


「もうわかっているはずだ。写真記憶男君。自分は今生かされているということを」

 記憶男は苦虫を潰したような顔をしている。

 うわ、性格悪ぅ。わざと生かしておいたのかよ。

「クルップよ。幻影のままそこですべてを見届けるがよい。さて、坊や、遊んでくれるのだろう?」

 マグナス卿は誘うようにいった。

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