第46話  根に持つ性格

「この邸のホストらしく、しっかりとお客様の出迎えをしなくてはね。たとえそれが招かれざる客だとしても」


 マグナス卿は鼻歌でも歌っているように軽い足取りで部屋を出ていく。

 俺も心配になって、というか好奇心で後に付いていった。

 応接室を出て、玄関ホールから外へ。

 すると、車回しの真ん中にある噴水よりも向こうに、一群の人だかりがあった。

 それらを見下ろして、あるいは見下すように、卿は玄関ポーチに仁王立ちしていた。

 この人完全に客をもてなす気ないよな。いや、これが卿のおもてなしスタイルなのかも。


「やぁやぁ、皆々様方、ようこそ御出で下さいました。ここの主である私が、ご挨拶申し上げます」

 マグナス卿は深々と礼を捧げた。

「あなたがマグナス卿か。こちらも会えて光栄ですよ」

「ん? その訛り、ドイツの方ですか。そういえば皆様方がお召しになられている服は、ドイツ軍のものですね」

 げ、あいつ写真記憶のドイツ野郎じゃないか。

 てことは、こいつら全員クルップの手先かよ。

 ここに来たのは、俺に対して、あるいは俺を導いたマグナス卿に気付いての報復か?

 あのときは辛うじて勝てたが、ヴァンパイアであるマグナス卿と共闘でも今回は果たしてどうなるか・・・。


「私たちがここに来たのは、我が主であるドイツの偉大なる大砲王、フリードリヒ・アルフレート・クルップ様のお言葉をあなた方に伝えるためです」

 そういって金髪の写真記憶男は軍服の懐から、文字が書かれた人型の小さな木片を取り出し、ポイと前に放った。

 すると人型の木片はみるみる大きくなり、恰幅のいい一人の男の姿に変わった。

「やあ、初めまして、マグナス卿。もうご存じの通り、私がクルップです。ずっとお会いしたいと思っておりました」

 ふん、依り代の分身か。本体は安全なところで高みの見物かよ。

「後ろに居るのはトキジク君だったかな? 先日はどうも」

 俺は黙っていたし、マグナス卿は相手の出方を探っているのか、なにも答えなかった。


「こんな形で面会が実現したことは申し訳ないのだが、実は確かめたいことがありましてね。今回、いや最近の数々の私の事業に対する妨害行為ともとれる所業は、あなた、マグナス卿と、延いては英国政府の意向ということで間違いないですかね?」

 なんだよ、以前からいろいろやらかしてるのかよ。

 しかし卿は変わらずだんまりを決め込んでいる。

「沈黙もまた答え。それらは英国による我が国への敵対行為として捉えてもよろしいのかな?」

 うっわ、もしかしてイギリスとドイツの国際紛争に巻き込まれそうなのかな、俺も。面倒臭いことになってきたぜ。

「いや、この際、英国政府は無関係なのだよ。すべて私の一存でやったまでだ」

 これには俺も含めて、クルップとドイツ野郎ども全員が驚かされた。

「あ、あなたは自分がなにをいっているかわかっているのか?」

 動揺を隠せないクルップの幻影。

「十二分にわかっているし、付け加えるなら私は完全に正気だ」

 正気じゃねぇよ、マグナス卿。結構イカレてると思ってはいたが、ここまでぶっ壊れてるとは、いやはや感服したね。まさか個人で世界的な軍需企業に喧嘩売るなんて。


「は、はは・・・。そ、それなら話は早い。もし母国を庇っているのなら、今のうちに申告しておくべきですよ?」

「あの国に庇い建てするほど義理もない」

「そうですか・・・。後で撤回させてくれなどとおっしゃらないように」

 クルップの幻影は写真記憶男以下、手下の私兵どもに合図を送った。

 全員が戦闘態勢に入る。


「では、あなた個人に、責任を取ってもらわねばなりませんね」

 やっぱり最後にはこうなるかよ。どうせ最初からマグナス卿と俺を亡き者にする予定だったんだろ? 相手は違ったが、準備しておいて良かったぜ。

 俺は両手を開いて、いつでも武器を召喚できるようにした。


「トキジク君は、そこで見ていてくれ」

「はい?」

「今の私はすこぶる機嫌がいいのでね。ちょっと遊んでみたい気分なんだ」

 卿は振り返り、俺に殴られた頬を片手で擦って微笑んだ。

 うわ、これ完全に根に持ってますよね。

 俺もついでに殺されるのかな。


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