第35話  探偵と助手

「春日ぁ! テメェいい加減そこから出てきてこっち来いこの野郎!」


 拒絶の嵐の中心、黒真珠のような暗黒の懐に、春日は居た。

 膝を抱え、胎児の格好で浮かんでいる。

 反応が無い。意識も無ぇのか。

 クソ、これ以上口開いたら本当に頭ごと吹き飛びそうだ。

 人がこんな万死の苦行を耐えてるのに、テメェはそんなとこで子供みてぇに昼寝かよ。

 いつまでも甘えてんじゃねーぞコラ。

 俺は必死で手を伸ばす。

 春日に近づくほどに拒絶の圧力は増す。

 右手の肉が波にさらわれる砂のように削られ、骨になり、それもまた吹き飛ばされる。

 こりゃあ、決死の覚悟で思い切って一気に行くしかねーか、やっぱり。

 テメェの拒絶で俺の体が消し飛ぶか、俺の不死の体でテメェを抑え込めるか、いっちょ勝負してやるよ!

 俺は激痛で滅茶苦茶な意識をなんとか集中させ、共感の魔法陣をイメージして、ありったけの力を振り絞り、叫びながら突撃した。

「春日ぁぁぁぁ‼」



          ※※※※※



 誰?

 おれの名を呼ぶのは誰?

 その声、初めてなのに懐かしい。

 近くからだったり、遠くからだったり。

 親密だったり、疎遠だったり。

 おれと関係を持っている奴なんていないのに。

 誰からも気味悪がれ、誰からもきらわれ。

 もう、嫌なんだよ。

 拒まれるのが、拒否されるのが、忌避されるのが。

 だからこっちから拒んでやった。

 拒絶してやった。

 こんな残酷な世界、いらない。



 世界が残酷なのは当たり前のことだ。

 人は生まれながらにして不平等だ。

 だからといって、生きるのを拒むのか?

 傷付けられたから、傷付けるのか?

 拒まれたから、拒むのか?

 世界は無慈悲だが、生きることを拒みはしない。

 だからこそ、人がいるんだ。

 傷付ける奴もいれば、傷付けない奴もいる。

 拒む奴もいれば、拒まない奴もいる。

 手を差し伸べる奴だっている。

 走り回れ、全力で。探すんだ、おまえの居場所を。

 もがいて、あがいて、のたうちまわって、求め続けろ。

 手を伸ばせ、その手で掴め。

 さあ、俺の手を握れ。

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