第34話 不死の代償
十一月の冷たい月が浮かぶ夜空に俺は舞い上がり、不肖の弟子である春日の気配を探った。すると機会を見計らったように、爆発音が大気を震わせた。
銀色の月光に、土煙の影が浮かぶ。
やっぱあそこだろうな。
俺は全速力で爆発の現場に向かった。
そこは大きな邸の庭先だった。なにか建物があったらしいが、今は半壊状態だ。そしてその瓦礫の中心に、まるで月の光を反射するかのように淡く光る大きな球体があった。
やっぱり、春日の仕業だったか。
いったいなにがあったんだよ。
静かに光の球体の側に着地する。
近くで見ると、光というより、暗い水面のように常に揺らめいている。
まるで歪んだ鏡だ。
その力で、光まで拒絶し、こんな風に微かに光っているんだ。
揺らめく球体からは強い風も吹き出している。
この中は暗黒の拒絶の嵐だ。
俺は知っている。
初めて春日に出会ったときも、同じ状態だった。
あのとき、この世のすべてを拒絶していた。
そして、俺が嵐の中心から、引っ張り出したんだ。
くっそ、最悪の夜だな。さっきは心臓に剣突き刺されたまま電撃放って、死にかけたっていうのに、ていうか一度心臓止まってるからね、死んだんだぞ、俺。なのにまた死ぬほど辛い試練乗り越えなきゃならねーのかよ。
「春日テメー、この借りは滅茶苦茶高くつくからな、覚悟しとけよ!」
俺は叫んで気合を入れ、両手に魔法陣のスクロールを召喚した。そして助走をつけ、全力で揺らめく拒絶の中心に飛び込んだ。
結界崩しの術と肉体強化と防御を発動させてもなお、とんでもない圧力。一歩進むことすらままならない。それどころか体中の肉が、徐々にこそげ落ちていく。
「あああああ痛ぇチクショウぉぉ」
いってる側から顎が外れてもげそうになったので慌てて口を閉じた。
血飛沫を上げながら千切れて後方へ吹き飛ばされていく肉片。それでもこの不死の肉体だからこそすぐさま再生して、なんとか耐えられている。
絶え間なく襲いくる激痛。限界を超えて気張ってなければ、即座に意識が喪失しそうになる。例えでもなく、文字通り本当に体がバラバラになりそうだ。
嗚呼ああああああクソクソクソクソクソ春日のクソクソ野郎ぉぉぉぉぉぉ!
助け出したらぜってぇいじめてやるこきつかってやるクソ痛ぇぇぇ!
もう死ぬ、死んじまう、死ぬほど痛ぇこの不死身の俺様だからこんな無茶なこと出来るんだぞこの野郎!
ていうかなんで俺こんなことやってんだ。なんでこんな思いしてまであんなビチクソ下僕野郎を助けようとしてんの?
マズい口が悪くなってきた。
だってしょうがねーじゃねーか。俺いまホント死にそうなのよ、ホントだったら何百回って死んでるほどの苦痛を味わってるのよでも死ねない訳よ、何故なら不死身だから。
そう正に理由はそれ。こんな割に合わない慈善活動してる理由はそれだ。
大事なことだから繰り返し何度でもいってやる。
こんなこと出来るのは不死の俺様だから出来るんだぞ!
とりあえず今ここでは俺にしか春日を助けることは出来ないんだよ!
だから俺がやるんだ。
出来るのにやらないとか、放って置いたら寝覚めが悪ぃだろうが!
この先も延々と生きて行かなきゃならないのに、そんな後味悪い思い引きずったまま生きていくのは御免なんだよ!
忘れることも出来ず、時の癒しもからも見放された不死の俺は、毎日毎日必死で一所懸命全力で、健康優良不良男としてやっていきてーんだよ!
だから助ける。だから助けてやるよ、春日!
俺の明るい未来のために、お前を助ける、助けなきゃならないんだ。
だから早く出て来いこのクソ野郎‼
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