第28話 不老不死探偵の助手 其の九
「父様の弟、あいつがこの家を乗っ取り、妹を利用しているんだ」
桃雛宇良は、嫌悪の籠った声でいった。
「どういうことだい?」
おれは話に耳を傾けた。
桃雛の血筋は、家系を辿ればこの国の神話の時代まで遡るという。何故そんな遥か昔から存続してきたかというと、ある特殊な能力が血族の内に発現するからだという。それは、生き物の肉体に作用する力。肉体に影響を与える力。
例えばさっき宇良がやったように傷を癒す力。
どうしてそんな能力が血族の内に発現するのかは、確かなことは忘れ去られ、今では神話の時代の神的存在から受け継いだとしか伝えられていないそうだ。
そしてただひたすらその能力の散逸と喪失を防ぐのに、必死で血筋の存続に努めてきたそうだ。その力をスメラギの国家統治に役立てるために。
しかし時と共に血も薄まり、能力を発現させる者も次第に少なくなっていった。
この国の始まりの時からスメラギに仕えてきたが、いつしか神代そのものが神話・おとぎ話のようなものとして現実味を失い、神々や奇跡の御業なども妖や異能や呪術などに落ちぶれ、桃雛の一族も同じ道をたどっていった。
今でこそ辛うじて華族の末席に数えられてはいるが、いつ除籍なるかもしれない。そんな中で、久方ぶりに一族の中で強い力をもった者が生まれた。
それが、宇良と双子の姉の美良だという。
その能力に目を付けた叔父が、御家再興の野望を燃え立たせ、桃雛の本家を乗っ取った。
「あいつが僕たちの父様と母様を殺したんだ」
涙を浮かべ、悔しそうに顔を歪め、吐き捨てる宇良。
「く・・・だな」
おれは小さく呟いた。
「え?」
訊き返す宇良。
「クソだなっていたんだよ。そんなのクソでしかない!」
ああ、また出ちゃった、師匠の影響。でも仕方がない。本当にクソなんだから。
「強過ぎる力は、不幸せを生む? ふざけるな! おれたちは好きでこんな力を持って生まれてきたんじゃねーんだよ。それを他人が勝手に疎んだり、妬んだり、憎んだり、気味悪がったり、畏れたり、利用したりして、そんなもん知るかってんだ。自分のことは自分で決める。自分の力の使い道は自分で決める。最大限に利用して、世知辛い世の中を上手に生きていくんだ。だから、誰かの言いなりになるな。クソみたいな奴らなんて便所に捨てちまえ! いつまでもウジウジしてんじゃねーよ!」
おれは一気にまくし立てた。息を荒げながら。
やべー、引いたかな? いきなり怒鳴り散らしちゃった。
「う、わ、悪い。なんか言い過ぎたかも」
チラリと様子をうかがったら、なんだか呆気にとられたような顔をしていた。
「お前のことっていうより、半分以上は自分への言い聞かせなんだけどな」
「い、いや、なんだかすごく心に来たよ。さっと霧が晴れた感じ」
「あ、そう? ならいいんだけど」
「君は、強いんだね」
「へっ、単なる強がりだよ。師匠の受け売りさ」
強がっていないと、生きていけないんだ。自分を奮い立たせていないと、うずくまってしまう。立ち止ってなんていられない。
「僕にもそんな風に生きられたら・・・」
「は? 出来るだろ。まずはこんな便所臭いところから抜け出すんだ」
「どうやって?」
「おれ様は探偵の助手だぜ? 錠前開けなんて朝飯前さ」
「やっぱり君、泥棒なんじゃない?」
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