第29話  不老不死探偵の助手 其の拾

 おれは懐から針金を取り出し、慣れた手つきで牢の錠前の鍵穴に突っ込んだ。


「随分様になってるね」

「疑ってんじゃねーよ」


 鍵開けなんて好きで上手くなったんじゃねーっつうの。人でなしのトキジク馬鹿師匠が、探偵の仕事だとかいいながら、しょっちゅう他人の家に侵入するのにおれに鍵を開けさせるからなんだよ!


「畜生、開いたぜこの野郎」

「ここから出てどうするの?」

「とりあえず、お前の叔父さん、もといおれを殴った髭ジジイを一発ぶん殴りに行く」

 宇良の表情は一瞬強張った。

「あの忌々しいジジイの顔にキツイ一発をくれたやるんだ。想像してみなよ、興奮してくるだろ? この話、乗るかい?」

 おれのいった意味がようやく現実味を帯びてきたらしい。顔がみるみる内に紅潮していった。

「うん、やる! そうだよ、あいつをぶん殴ってやる!」

「そうそうその意気だ」

「そして妹を取り返すんだ!」


 鉄格子の扉は軋んだ音を立てて開いた。


「さて、出たはいいけど、ここっていったいどこなんだ?」

「君が盗みに入った邸の庭の地下さ」

「だからおれは泥棒じゃねーっつうの、しつこい」

 ああ、そういや母屋とは別にレンガ造りの小屋があったなぁ。

「だけどさ、地下室があるのも普通じゃないけど、その地下に牢屋があるっていうのは、いったいどういうことなんだ?」

「上に出てみればわかるよ」

 宇良は素っ気なく地下通路を進んでいった。通路の両脇にはおれたちが入れられていたような牢が幾つも並び、不気味な陰鬱さを醸し出していた。牢はどれも空で、しかしつい最近まで誰かが中に居た跡が残っていた。

 いったいどうなってんだよ、ここは。


 通路の突当りに石造りの階段があり、ランプの薄い明かりの下、おれたちは上がっていった。

 階段を上り切ったところに、金属製のドアがあった。宇良がドアノブを回してみたが、鍵がかかっている。

 随分物々しいドアだなぁ。まるで地下牢を封印しているみたいだ。

 さて、再びおれの出番だ。


「重宝するだろ? おれの能力」

 おれはドアの鍵穴に針金を突っ込みながらいった。

「うん。だけどここからが問題なんだ」

「問題って?」

「この先には誰か人がいるかもしれない」

「こんな夜に? 邸にはほとんどいなかったぜ?」

 あのジジイと手下? 以外は。

「うん、夜でも研究者はまだ残ってるかも」

「研究者? なんだそれ」

 そこでカチリと音を立てて鍵が解かれた。

 なんにしても、このドアの向こうに答えがあるんだろ?

「ま、人目を忍ぶのはおれ様の得意分野だ。任せておきな」

 いや、それでも泥棒じゃないからな。

 あくまで探偵の助手だから。

 おれは慎重に頑丈な金属製のドアを開いた。

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