第27話  不老不死探偵の助手 其の八

 なだろう。温かで、光に満ちて、とても心地いい。

 まるで、誰かに抱き締められているような・・・って、おれは誰かに抱き締められたことなってあったっけ?

 いや、なかった。こんな能力のせいで疎まれ、蔑まれ、虐げられてきたけど、抱き締められたことは一度も、一度も、いや、あった。確かにあった。あれは、そう・・・トキジクさん。

 は、もしかしてこれは夢? それとも死んだのか?


「師匠‼」


 おれは叫び声を上げ、思いっきり上体を起こしたら、いきなり硬い何かに頭をゴチンとぶつけて、再び目の前が真っ暗になった。


「痛ぇっ!」


 思わず頭を抱え込んで呻く。

 いったいなにがどうなってんの?

 痛みに顔を歪めながら目を開けると、そばで同じように頭を抱えて痛がっている人間がいた。

「痛ぇてて・・・、って誰だよ? おまえ」

「痛いのはこちっさ。せっかく怪我の治療してやってたのに」

「怪我の治療・・・?」

 あ、そうだ。思い出した。

 おれは舞踏会の会場から髭男と少女を尾行して、以後略。


「ジジイに棒で殴られたんだ!」


 ちっくしょう、頭に来る! あのジジイ無抵抗でいたいけな少年を好き勝手殴りやがって!

「そうだろう。その怪我の治療してやってるだよ。だから暴れるなって」

「え? 治療?」


 気が付けば側にいるのはおれと同じくらいの少年だ。それが棒で打たれた箇所に手を当てている。よく見るとその掌がぼんやりと光っている。そしてなんとも言えない温かさが伝わってくる。

 ああ、気持ちが安らぐ。痛みも退いていく。それどころか赤く腫れ上がっていたのさえ、治まっていく。


「き、傷を治せるのか?」

「だからさっきからそう言っている」

 少年はぶっきらぼうに言った。

 薄暗い中で、ぼさぼさの髪、垢じみた顔、粗末な衣服。

 この少年はこんなところでなにをしている・・・、っておれの方こそここでなにをしている?

「っていうか、ここはどこなんだ?」

 おれは初めて周囲を見回した。

 木の床、石壁、敷かれた布団、天井からぶら下がるランプ、机と椅子、そして鉄格子。

 鉄格子⁉


「そうだよ。君は囚われの身だ。僕と同じく」

 察したように少年は呟いた。

「おれは、二人の後を付けて大きな邸に忍び込んだら暴力髭オヤジに殴られて、そして・・・」

「なに? 君もしかして泥棒?」

「はぁ? なにいってんの。おれのどこが泥棒だよ」

「いや、他人の後を付けて家に忍び込んだら完全に泥棒なのでは?」

「違う! おれは探偵の助手だ!」

「へぇ、探偵ねぇ。物は言いようだな」

 少年はあからさまに不審そうな目つきになった。


「おまえこそ何者なんだよ。こんな牢屋に居て」

「僕は・・・」

 そこで少年はいい淀んだ。

「あ、大丈夫。おれ、大抵のことには動じないから」

 不老不死探偵の助手だぜ? 仕事柄、おかしな連中には慣れっこさ。


「僕は・・・桃雛宇良ももひなうら。この家の子供さ」

「ん? この家の子供なのか? それがなんでこんなところに居る?」

「君と同じさ。暴力髭オヤジにここへ放り込まれたんだ」

「はぁ? あいつはおまえの親父なのか?」

「違うよ。あいつは叔父。あいつがこの家を乗っ取り、妹を利用してるんだ」

 ふむ、なんだか複雑なお家事情らしな。これは確実に探偵の出番じゃないのか?

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