第23話  不老不死探偵の助手 其の四

 オッス、おれ、児屋根春日。

 訳あって、探偵のトキジクさんの助手をしてるっす。

 そして今、仕事の一環として、怪しい男女の尾行をしてます。


 帝国ホテルの舞踏会でドイツ人と密会していた監視対象の二人は、話が終わると早々に会場から退出した。男はフロックコートを着た髭の紳士。女はショールを羽織った和服姿。あれ、よく見たら女性の方は随分若い、というかおれと同じくらいか? 化粧してるからわからないな。


 そんな二人は玄関ホールから外に出ると、直ぐに馬車に乗り込んでしまった。

 え、ウソ、どうしよう。おれ、馬車に乗る金なんて持ってないけど⁉

 あたふたしている間にも、二人の乗った馬車はホテルの敷地から出ようとしていた。

 くっそー、こうなりゃ走って走って追いかけてやる!

 ぜってー見失わないぞ‼

 なんてったって、トキジクさんに頼まれたんだから!

 この児屋根春日、命に代えても!




 え、ていうか、待って。


 ちょっと待って。


 もう無理、走るの無理。


 あの馬車いったいどこまで行くの?


 だいたい馬に人間が敵う訳がないでしょ。

 何考えてんだあのバカ師匠。

 馬車を走って追いかけるなんて無理なんだよ!

 尾行させるんなら、こうなることくらい想定して、馬車代くらいよこしとけ!

 はぁはぁはぁ・・・・。

 駄目だぁ。これ以上走ったら心臓が破裂する。

 おれはふらふらと立ち止って膝に手を付き、道端に屈み込んだ。


 こんな初冬の寒い夜に、おれは汗かいて肩で息して何やってんだ?

 くそぉ、帰ったらトキジクのバカ師匠に医者代請求してやる。あと贅沢な食い物。


 しかし気が付けば、追っていた馬車が長い土塀の先で止まっているではないですか。

 おおお、奇跡だ。やっぱり日頃の行いがいいんだろうな。

 どうやら馬車の目的地らしい。

 馬車から髭の紳士と和服の女性が降りて、大きく立派な門の中に入っていった。

 さすがおれ様、結局目的達成しちゃったよ。

 おれは息を整えながら、二人が中に消えた門の前まできた。馬車は既に立ち去ってしまっていた。


 さて、どうしたものか。

 師匠には、二人の行先を突き留めたら何もせずに戻ってこい、といわれていたけど・・・。

 いや、無理だよね? ここまできて、何もせずに帰れって、無理でしょ。

 この湧き上がる好奇心を抑えるなんて不可能でしょ。

 おれが何のためにあんなに走ったと思ってんだよ、心臓裂けそうになってまで。


 高い土塀、いささか古びた堅牢な門。よく見れば塀の上の瓦には、苔や草が生えている。門の扉も、年季を感じる。というか寂れている。

 ふむ、いったいどんなお屋敷なのか。

 興味が尽きないぜ!

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