第21話  不死身であるということ

「へへ、悪ぃけど、テメェのこともフリードリヒも、どうでもよくなった案件が出来ちまった」


「はぁ? 何を言っている?」


 世界中で武器を売りさばいている死の商人の親玉が、わざわざ極東の国に出向いてまで熱心に話し込んでいた相手だ。そんな奴らの尾行は、春日には荷が重過ぎだろう。俺の判断違いだった。


「俺はここで退かせてもらうぜ」

 理解出来ずに眉をひそめる写真眼野郎を無視して、俺は両手のピースメーカーの撃鉄を起こし、ためらうことなく引き金を引いた。

 二つの銃口が相次いで火を噴くと同時に、俺は銃を消して、一枚の巻物を召喚した。

 銃弾は呆気なく弾かれ、写真眼男はサーベルで切りかかってこようとした。

 俺は巻物を広げ、魔法陣を発動させ、十以上もの自分の分身を創り、周囲に展開した。


「所詮幻術の類い、全部消せば問題ない!」


 今度は写真眼男がサーベルを幾つも出現させ、針の爆弾のように全方位に射出し、俺の分身体をそれぞれ貫かせた。

 サーベルは分身の体をすり抜け、本体である俺はサーベルを避けた。


「お前が本物だ!」


 写真男は強化した動きで跳躍し、俺の心臓目がけてそのサーベルを突き刺した。

 胸の奥深くまで金属の刃が食い込み、骨や心臓や肺が貫かれるのを感じた。

 痛み? そりゃ痛ぇさ。目玉が飛び出して、頭の血管ブチ切れそうなくらいの激痛だ。

 不死身の体だって人並みに痛みは感じる。傷付けば、痛い。

 吹き出す血。染まる刀身。


「とらえた」

 まだ水で濡れた髪から雫を滴らせながら、写真眼男は囁いた。

「恨みはないが、運が無かったな」

 ハッ、こんなんで死ねたら、とっくに死んでらぁ。

「とらえたのはこっちさ」

「ん?」

「死ぬためにこんなクソみてぇに痛ぇことするかボケ」

 俺は激痛で乱れる意識の中に必死で術式をイメージした。

 半分の効果でいい、発動しろ!


「さっきのお返しだ」


 そして、俺の周囲に電撃の火花が走った。


 バチンッ。


 通常のより大分威力は弱いものの、人間一人気絶させるには十分だった。

 写真眼野郎の体が水でずぶ濡れだったから、まんべんなく感電してくれたぜ。

 しかし、不死身の体じゃなかったら、俺は完全に死んでたな。なにせ心臓にサーベルぶっ刺さったまま電撃喰らったんだからな。心臓焼け焦げてもおかしくなかった。

 俺はゆっくりと胸から刀身を抜き、ぐったりと倒れた写真記憶ドイツ男の体を脇にどかし、まだ水でぬかるんでいる地面に仰向けに転がった。

 傷付いたそばから再生していく俺の体。本来なら、気絶して、その後もしばらくは体の自由が利かないはずだ。

 畜生、痛ぇ。まったく嫌になる。不死身の体ってもんはよ。

 だが、いつまでもこうしている訳にもいかないんだ。

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