魔王と交代勤務


「やりましたよ大魔王様!さっそく勇者の奴を倒してやりました!おとり作戦大成功ですよ!」


「よし!よくやった!」


どうやら、ワシの作戦は上手くいったようだった。スライムを倒そうとしたらゴールドドラゴンが来るんだからな。そらどうにもならないだろう。


「しかし・・・。わかっていた事ですが、やはり奴は殺しても死にません。非常にやっかいな存在です。」


「うむ・・・。まぁその辺りに関してはワシに少し考えがある。いいか。このまま最初の街に缶詰にするのではなく、少しずつ、少しずつ奴自身の気持ちを削りながらこちらの元へと引き込むのだ。」


「わかりました。大魔王様のおっしゃる通りにいたします。」


心を削りつつ、なおかつ少しずつ進んでいるという実感を与えながら最終的には悪に染め上げるのだ。



「さて。それでは、次の現場へと向かうとするか。やはり戦場は現地。そこに行かなければ話になるまい。」



そしてカルボナーラと共におとずれたのは、勇者の街から少し離れたとある洞窟の中。ここには、主にゴブリンやオーク達が住んでいた。


「はいみんな!ちょっといいかな?こちらの方は、大魔王のヘル・カイザー様です。僕より偉いので、ちゃんと言う事を聞くように。」


なんとなくざっくりした説明で紹介されたがまぁいいだろう。


「は!よろしくお願いいたします!」


ピシっと背筋を伸ばして敬礼で応えるオーク。そう。奴らは至って真面目なのだ。ただ、時々、女騎士を相手にする時だけ、なぜか性欲が荒ぶってしまうだけなのだ。


「そうかしこまらんでもよい。これからよろしくな。」


「はっ!私は、この辺りを主に縄張りとするオークであります!好きな物は金髪で白銀鎧を来た女騎士であります!」


「・・・そうか。ほどほどにな。」


「はっ!」


残念ながら当代の勇者は男だ。今のところソロであるからして、奴の性的趣向が満たされる事はないだろう。



「ところで、今はどんな仕事を?」


「今は、周囲の巡回を行っているところです!魔王様のために、昼夜関係無く身を削って働いているところであります!頑張ります!」


「ほう。それは関心だ。では、今はだいたい何時間くらい働いているのだろうか?」


「今で20時間になります!」


「その間に休憩や休みなどはあるのか?」


「ありません!魔王軍のより悪い未来のために、休む事など許されません!」


奴は今、聞き捨てならない事を言った。とても許される事ではない。


「ダメだダメだ!そんな事ではダメだ!」


「・・・え?足りないのですか?」


「違う!そうではない。働き過ぎだと言っておるのだ。」


「・・・働き過ぎですか?」


「そうだ。いいか?もし、この場所に勇者達が攻めてきた場合、無理をしてもらう事があるかと思う。だから逆に、そうでない時は出来るだけ無理をしないでほしいのだ。毎日の休息がしっかり取れていなければ、いざという時の出足が鈍る。ふんばりも効かぬ。」


「・・・はぁ。」


何を言われているのかわからないような顔で話を聞くオーク。


「やる時はやる。だからこそ、やらない時はやらない。この辺りのメリハリをきっちりして行く必要がある。休む時はおおいに休むがよい。巡回の時間も、誰かが長く見るのではなく、3交代にしてきっちり分担するのだ。」


「はい!わかりました!」


「魔王軍。などとひとまとめにするのは簡単だ。しかし実際は、そなた達魔物1人1人が、個人が集まって集団となる。個人の疲労や指揮を無視して大儀は成せぬよ。」


「はい!」


「これからは、1時間ごとに休憩を。3食きっちり食べる事。希望者にはオヤツも付けよう。さらに手柄を立てた者には褒美もやろう。そしてなにより、絶対に無理はしない。死なない事。わかったか?」


「はい!ありがとうございます!」



こうして、新生魔王軍に労働時間規制と、交代勤務制度が導入される事になった。



「大魔王様は優しいのですね。」


ウットリした目でカルボナーラが見つめてくる。


「そうではない。もし、疲労が濃い状態で勇者達に遭遇して殺されるような事があっては奴らの経験値になってしまう。それでは奴らが強くなってしまうだろう?ワシはそれが気に入らないだけだ。」


「・・・そうですか。そういう事にしておきましょう。」



魔王と大魔王。2人が共に見る夕日はとても綺麗であった。

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