勇者日記 その1
最悪だ。ついに俺が勇者に選ばれてしまった。
ある日突然家に王様の使いがやってきて、王様がお呼びですので来てくださいとかなんとか。
嫌な予感がしてとりあえず行ってみると、玉座に座った王様の前まで連れて行かれて、お決まりのセリフ。
「そなたこそ500年前の伝説の勇者の子孫なのじゃ!」
と。アホかと。500年も前の勇者ならその辺の人がたいがい勇者の子孫だろうよと。人類の繁殖力なめんな。
で、とりあえず旅の支度として、おこずかい程度のお金と『魔王討伐の旅実行中!』と大きくかかれた妙に生地の質だけがいい上下セットの服と、なんか角材みたいな木の棒を渡された。
その後、手の甲に『俺が勇者』と書かれたスタンプを押された。なんだこれ。
なんだよこの服。っていうか、棒ってなんだよ。これから魔王倒しに行こうって勇者が、棒ってなんだよ。ヤンキーにも勝てねぇよ。
ここ最近、俺の住むこの国ではこんな感じで頻繁に『お前は勇者の子孫だ』と言われて無理やり旅立たされる人が後を立たない。なんでも、最近新しく王様になった人が外から来た人で、自分の実績作りのために魔王を討伐したいのだとか。
なので、こうして王様に呼び出された人は住人から犠牲者と思われている。勇者どころの話じゃない。
なにより恐ろしいのが、この手に押されたスタンプ。見た目ふざけたこのスタンプだが、なんと、これは1度押されると2度と消えない。
消えないだけならまだいい。このスタンプは、押されるとなぜかもう死ななくなってしまうのだ。
考えた事ある?死ねないってどんな事か。
なんでも、死ぬと最後に立ち寄った教会に自動的に転送されて蘇生されるそうで、何度でも何度でも何度でも魔王討伐に向かうはめになるみたいで。
じゃあいっぱい人が派遣されてたら、いつか本当に魔王を倒す人が現れてもおかしくないんだけど、今のところそんな人はいない。
なぜなら、途中で嫌になるから。
もうね。どんな恐ろしい目にあっても痛い思いをしても復活しちゃう。無限に無限地獄。死ぬしかないけど死ねない。だから、死んだら教会に転送されてしまうのでなるべく死なないようにして隠れたり逃げたりする人がほとんど。というか、全員そうなる。
そんな勇者に選ばれてしまった。大変不名誉だ。このアホみたいな服のせいで街を歩いても周りの目線が痛い。おばあちゃんなんか半泣きで拝んじゃってるよ。
嫌なら家に帰ってひきこもってればいいんだけど、それだと王様パワーで遠まわしに家族とか友達に嫌がらせされちゃう。急に職場クビになったり。
なので、勇者に選ばれた奴はすぐに街から追い出される。早く出て行けと言わんばかりの目線が痛い。
まぁ、とりあえず出て行って、他の人と同じように逃げて隠れるしかないかなぁ。あ~あぁ。この街の生活気に入ってたのになぁ。
あんまり考えてもしょうがないので、とりあえず街の外へ出てモンスターを倒す事にした。
さっそく俺の目の前を弱そうなスライムが歩いているのを発見。よし!まずはアイツを倒して景気付けといきますか!
棒を持ってスライムに近付いた瞬間、なぜか俺を見たスライムが大きな鳴き声をあげた。
そして、空から金色の輝く大きなドラゴンがやってきたのだ。
もうね。あ。っと言う間。空から着地したかと思ったら、前足で一撃。爪の1本だけで俺より大きかったんじゃないかな。一瞬でミンチ。
気がついたら教会に居たよ。
「おぉ勇者よ!死んでしまうとはなさけない!」
なさけないってなんだよ。じゃあお前やってみろよ!
そんなわけで、とにかく俺の勇者としての人生が始まった。
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