魔王様、スライムを諭す
「では、やると決めたら悪は急げだ。まずは勇者の様子はどうなんだ?」
「は、はい!当代の勇者はまだ今のところ頭角を現してはおらず、ただの民間人と変わりありません。どうしましょう?いきなり攻め滅ぼしましょうか?」
「・・・いや。しばらく様子を見ようではないか」
ここでいきなり攻め滅ぼすのは素人の考えだ。いきなり全力を持って勇者の街を滅ぼすと、なぜか勇者だけが生き残る事になったり、もしくはその滅ぼされた街の生き残りが新しい勇者になったりするからな。
なので、ワシが今回考えた作戦はこうだ。
「勇者は、いくら倒しても復活してしまう。だったら、その勇者自身を悪に染めてしまおうと思うのだ。」
そう。今回この世界では、勇者に対して『じわじわ心を削りつつ悪に染めていく大作戦!』でいこうと思う。
「す、素晴らしいですよ魔王様!それでいきましょう!」
「よし!そうと決まればまずは勇者の住む街の近くの魔物の様子を見に行こうではないか!」
「え・・・?カイザー様が直々に向かわれるんですか?」
「当たり前だろう!ふんぞり返って偉そうにするだけが王ではない。実際に手となり足となる魔物達と直接向き合ってこその魔王だ!頭がいくら生き残っても、肝心な時に手足が動かぬのでは話にならん!」
やはり事を成すうえでなにより大事なのは現場である。そこをないがしろにする魔王は最後には滅びるのだ。
「わ、わかりました!それでは私の魔法で移動しましょう!」
そして。
「ここが勇者が住むという街の近くの森か」
「はい!現在、この周辺のモンスターはここを拠点に活動をしています。あ、噂をすれば、そこにスライムがいますよ!」
カルボナーラの指差す方を見ると、そこには仲の良さそうなスライム3匹がいた。
「あ!そこのスライムさん!ちょっといいかな?」
カルボナーラが声をかけると、スライム達は近付いてきた。
「はい!なんでしょう魔王様!」
ポヨポヨとした液体のような丸い球体の外見。モンスターというには少し可愛らしい声だった。
「こちらが、新しい大魔王様のヘル・カイザー様」
「だ、大魔王様ですか!はじめまして!よろしくお願いします!」
ポヨポヨの体が緊張からか少し硬くなった。
「はじめまして。ワシの名はヘル・カイザー。そう緊張せずともよい。ところで、そなたらはここで何をしていたのだ?」
「え・・・えっと、人間が居たら脅かして街に帰ってもらうように見回りしてました!僕達は、戦うと弱いから殺されてしまうので、脅かすくらいしかできないんです・・・。」
そう言ってしょんぼりしてしまうスライム達。
「そうか。よしわかった。では、今日からそなたらは3匹で見回りするのを辞めるのだ」
「え!・・・そ、そんな。僕達ではダメですか・・・?」
「そういう話ではない。見たところ、そなた達は大変仲が良さそうにみえる。違うか?」
「は、はい!僕達、産まれた時からずっと一緒でとても仲良しなんです!」
キラキラした目で嬉しそうに語るスライム達。
「そうか。それはいい事だ。では、そなたらは強さもそんなに変わらないのだろうか?」
「はい。ずっと一緒に育ってきたので、だいたい同じくらいの強さだと思います」
いけない事だと思ったのか、少し恐怖の入り混じった表情になった。
「では聞くが、もし、そなたらのうちの1匹を倒してしまう人間が現れた場合、残された者はどうなる?助けに行くのかもしれんが、同じ強さなのだ。助けに向かう者も殺されてしまう。違うか?」
「・・・はい。そうだと思います。」
「それでは悲しかろう。先に死んだ者も、そんな事が望みではなかろうよ。だから、そなたらには非常に強力な護衛をこれからは付ける」
「強力な護衛・・・?」
キョトンとした顔でこちらを見る。いまいちよくわかっていない顔だ。
「そう!強力な護衛だ!そして、そなたらの仕事はこれから人間を脅かす事ではない。人間を釣ってくる事だ!」
「釣ってくる・・・?」
「いいか?気を悪くしないで欲しいのだが、残念ながらそなた達はやはり他の魔物に比べて弱い。が、考え方によってはそれは非常に大きな長所になるのだ」
「弱いのにですか?」
「そうだ。そなたらは弱い。つまり、誰より狙われやすい。そこがとても重要なのだ。言い換えれば、そなたらは魔王軍1狙われやすい。おとりとして最高であると言える」
「・・・おとり?」
悲しそうな顔をするスライム。
「そんな顔をするでない。なにも犠牲になれというわけではない。そなたらが1匹ずつ行動すれば、まず間違いなく人間が釣れる。そうなったら、迷わず助けを呼ぶのだ。強力な護衛を」
「逃げて助けを呼ぶのが仕事ですか・・・?」
「そうだ!この仕事を誰より完璧に、完全に遂行出来るのがそなたらスライムなのだ!こればかりはワシにもできん。そなたらは一番弱い。ゆえに、おとりとして一番素晴らしい!このワシすらも越えるほどに!」
「大魔王様を越える・・・?」
「そうだ。これは大変重要な任務になる。新しい魔王軍の明日は、そなたらの働きから始まると言っても過言ではない。出来るか?」
「・・・は、はい!頑張ります!」
キラキラした目で返事をするスライム。
「そうか!期待しているぞ!ここら一帯のモンスターのグループは解散。その代わり、人間・・・特に勇者が現れた場合は即座に助けを呼び、護衛に任せる事。わかったな?」
「はい!」
こうして、勇者の住む街近辺のモンスターに同じように呼びかけ、さっそく編成が変更される事になった。
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