隠居魔王の成り行き勇者討伐 倒した勇者達が仲間になりたそうにこちらを見ている!

こゆき

魔王様、降臨す

ワシの名はヘル・カイザー。最強にして最悪の魔王。だった。


100年ほど前に生意気な勇者を根絶やしにし、見事この世に魔族の楽園を築き上げ、さらにワシよりも潜在能力の高い子までもうけた。


もはやワシの代でするべき事は無い。後は、次の世代にまかせてワシは隠居生活を送っていた。


そして、今日はその隠居生活の最大の楽しみである『MKI666』の魔界ライブツアーの最終日。パンデモニウムドームでのライブの日である。


ワシは元・魔王であるが、それ以上にMKIの大ファンでもある。真のファンは権力に物を言わせたりせず、他のファンの方々と同じような扱いを望む。


ゆえに、本当に運と愛のみで手にしたこの最前列のプラチナチケットだけは無駄にするわけにはいかぬ。


勇者と対峙したあの時以上の心の高ぶりを感じる。明日、ワシはいよいよ推しメンと1つになるのだ!!



と、その時。



ワシの足元に白く輝く魔方陣が現れた。


「え?ちょ・・・え?」


瞬く間にワシの体は消え去り、次の瞬間、見た事も無い部屋に居た。


「こ・・・ここは・・・?」


ふと前を見ると、なぜか全力で土下座をする魔物が1匹いた。


「お、お願いします!この魔界を、あなたの手で助けてください!!」


突然過ぎて何を言われているのかさっぱりわからぬ。そんな事より、とにかく明日はライブなのだ。ここがどこだかわからぬが、早く帰してもらわねばならぬ。


「嫌じゃ。さっさと帰せ。さもなくば滅びよ」


手に魔力を込めて構える。


「あぁぁぁ!!ちょ、ちょっと待ってください!!話を聞いてくださいよ!!それに、僕を殺したらあなたは元の魔界に帰れなくなりますよ!」


元の魔界?というと、どうやらここは別の魔界なのか。なるほど。まずは詳しい話を聞いてみようか。



「わかった。話せ」


「あ、ありがとうございます!実はですね・・・。私、この世界の魔界の王なんですけど、もうすっかりマイナーといいますか、恥ずかしい話私もう激弱でして。部下の魔物に支えられてなんとか魔王をやってる感じなんですよ。」


たいていがどこの魔界であっても魔王というからには魔族の頂点に立つ者であり、かなりの強さであるはずだ。それなのに、自ら弱いと言うこの魔物に少し興味が沸いた。


「そ、それでですね・・・。あの、我が一族には昔から伝わる大魔王ガチャ装置というのがありまして、これが魔王石5個で1回まわせるガチャなんですけども・・・。」


「大魔王・・・?ガチャ・・・?」


「は、はい!でもですね、これが相当昔に作られた物でして、その魔王石の入手方法も途絶えてまして、唯一の望みは100年に1回だけログインボーナスで1個配られる石だけでして・・・。」


「ログインボーナス・・・。」


何を言ってるのか全然わからぬ。


「100年に1個手に入る石を5個集めてやっと1回まわせるガチャなんですよ!で、今日がその記念すべき500年目でして・・・。本当は10連だと11回まわせてお得なんですけど、さすがに5000年は・・・」


「そうか・・・。ワシを呼び出すのに500年も待ったのか・・・。ご苦労であった」


同じ魔族として、元・魔王として、やはり頼られるのは悪い気はせぬ。ワシを呼び出すためだけに500年とは、その想いに報いてやるのが魔王の勤めであろうか。


「い、いえ!そういうわけではなくてですね。呼び出される大魔王様はランダムになっておりまして。で、でも、最初の単発1回でレジェンド・レアのヘル・カイザー様を呼び出せたのはこれはもう奇跡としかいいようがない!」


なにやら目をキラキラさせて熱く語る魔物。


「そ、そうか。なんだか全然話がわからぬが、レジェンド・レアとやらは凄いのか?ワシは凄い大魔王なのか?」


「それはもう!排出率0.02%の確率の激レア大魔王様ですよ!」


おぉ!なんだか悪い気はせぬ。


「そうか!やはりワシは凄いか。ところで、そなたの名前はなんというのだ?」


「あ、申し訳ありません!私は、この世界の魔界を治める魔王・カルボナーラと申します!」


「カルボナーラ・・・。名前は強そうじゃな」


「はい!みなさんそう言ってくれます!」


そう言って照れくさそうにするカルボナーラ。褒めてないのだがきっとアホなのだろう。



「よしわかった。ところで、どうすれば元の世界に戻れる?ワシは、元の世界にとても重要な用事を残してきたのだ」


ワシの推しメン『ラーミアのみあっちょ』のライブをどうしても見なければならぬ。前回の魔界総選挙で見事センターを勝ち取った記念すべきライブなのだ。


「は、はい!それはですね。カイザー様が勇者を倒していただければ、元の世界に戻れます。もちろん、時間も元の世界のここに来る前の瞬間に戻させていただきますので!」


「・・・カルボナーラよ。そなた少し怪しいな。ワシにウソをついていないか?」


奴の説明には納得出来ない部分がある。


「今日初めてその装置とやらを使うのに、どうしてワシを元の世界に戻すなどと保障が出来る?もしウソだった場合、タダでは済まさぬぞ!」


「ひぃっ!・・・いえ、おっしゃる事はごもっともです!こちらをご覧ください!」


そう言って、カルボナーラは1冊の本を手渡してきた。


「大魔王ガチャ取り扱い説明書・・・?」


怪しさがとどまるところを知らない。



「これの、142Pのここに・・・。」


「おぉ。本当だ。『この装置で呼び出した大魔王は、勇者の消滅後元の世界に戻ります』と書いてある」


「はい!勇者の消滅が条件なのですが、どういうわけかこの世界の勇者は死にません!」


なにを言い出すかと思ったら。この小者魔王は本当に物を知らぬ。


「はっ・・・!くだらぬ。そんな事魔王界では常識ではないか!奴らはいつもそうなのだ!倒しても倒しても倒しても・・・!」


ただこの通説には間違いがあり、奴ら人間には勇者を復活させる仕組みが存在し、その仕組みの存在ごと抹消すればその限りではない。勇者は復活しなくなるのだ。


「なるほどわかった。この世界でワシは勇者を消滅させれば元の世界に戻れる。というか、元の世界に戻りたければそうするしかない。というわけだな」


「は、はい!・・・大変お手数おかけしますが、よろしいでしょうか?」


「よろしいも何もないのであろう?やるしかないなら早く済ませようではないか」



こうして、隠居魔王の勇者討伐が始まったのである。

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