第13話
エンデレたちには父親がいた。母親はエンデレたちが小さい頃に死んでしまった。
母親が死んだ原因をエンデレたちは知らない。しかし、死んだその日を境にして、父親は酒浸りになった。もとから父親はろくでなしで、ろくに働こうとはしなかった。しかし、母親が死んでからは、動くことすら面倒になったようだった。人嫌いで、だから森の中に住んでいる。
父親はエルのことはとても可愛がった。エンデレの事は比較的可愛がらなかった。エルのことはよく褒めるが、エンデレの事は比較的褒めなかった。
実際エルは小さいころから優秀で、人に好かれる質だった。エンデレは優秀でもなく、好かれる質でもなかった。
エンデレはエルのことが好きだった。エルもエンデレの事が好きだ。父親はエルの事が好きだった。エルも父親の事が好きだった。
でも、エンデレと父親の間には少しだけ深い溝があった。特別仲が悪いということもないが、父親はとにかくエンデレの事は褒めない。エルに比べて。
エンデレは、父親に酒臭い溜息をつかれながら、よく叱られたことを覚えている。
「エルは優秀だよなあ。お前はよくエルに引張ってもらっているよなあ。でもなあ、それじゃあダメなんだよ。兄貴は妹を守ってやらにゃならん。兄貴は、妹よりも頼りがいがないとダメなんだよなあ。本来はそういう、役目があるんだよ……」
父親はエンデレから目を背けながら説教を続けた。エンデレはじっとそれを聞いていた。
「いいか? お前はエルの兄貴なんだ。だから、お前が守ってやらにゃならん。間違っても、足を引っ張る事なんて、あっちゃいけないことだぞ」
父親は、ぶつぶつとそういったことをよくエンデレに聞かせた。
エンデレが「わかったよ、父さん」と頷くと、それでも父親は首を傾げて、エンデレの事をちらりと見るのだった。
「兄貴は妹を守らにゃ……」
そして最後は、ふいっと父親が顔を背けて、酒を飲んで、会話が打ち切られるのだった。
エンデレは、酒を飲む父親をじっと見ていた。
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