第9話
「なんやかんやね……」
恐る恐るエンデレは周りを見渡した。ここもまた、エンデレの見知らぬ風景だった。
どこか山の中のようだった。木々が剥げて岩がむき出しのでこぼこ地帯だった。おそらく山頂付近のようで、天にのぼる大木が見えないから、妹のいる丘ではないようだった。
風がエンデレに対して吹き付けてきた。臭かった。
頭上から断続的にバッサバッサという音がしていた。太陽から大きな影がエンデレのいる場所に落ちている。
エンデレは、おそるおそる上を見た。
ドラゴンがエンデレをじっと見ていた。エンデレもそれを見返した。
ドラゴンは、エンデレのすぐそこでじっと滞空していた。
「うわあ」
ドラゴンが吠えた。大音量が響き、空気や地面が振動し、エンデレも震えた。
「に、逃げないと」
エンデレはすたこらとドラゴンに背を向けて走った。ドラゴンは地面に着陸し、もの凄い勢いで地面を蹴った。
そのときエンデレは間違いなく地面の揺れを感じた。後ろからとてつもない速度で、ドラゴンが自分を追ってきているのを肌で感じた。
「やばいやばい……」
エンデレとドラゴンの距離は徐々に縮まり、涎を垂らしたドラゴンの口が、ガチンガチンと牙を鳴らせながら、エンデレの肉に迫ってきていた。
エンデレの短い後ろ髪をドラゴンの牙がかすめ、ドラゴンの口の匂いがエンデレの全身を吹き付けている。
ドラゴンがあわやエンデレを口で捕える寸前、エンデレがもう駄目かもと諦めかけた瞬間に、銀色の一閃がきらめいた。
「せやあ!」
剣を持った女性が、ドラゴンの堅い肌を切りつけた。ドラゴンの首元に赤い切り口が一筋流れた。
ドラゴンは耳が壊れそうな程の叫び声を上げてひるみ、よろめいて脚の速度を緩めた。傷は致命傷には至っておらず、ドラゴンの憎悪の瞳が爛爛と輝いて、剣を振るった女を捉えていた。
「浅いか……このなまくらが」
女はドラゴンに剣を向けて注意をひきつけたまま、後ろのエンデレを見た。エンデレはよろけそうになりながらも、しっかりと二本の足で立っていた。
「だ、大丈夫です。助かりました」
「まだ助けられてない! 今のうちにはやく逃げろ!」
ドラゴンは、女を少し警戒しながら、今にも飛びかかろうと脚に力を込めている。
「はい。ありがとうございました」
エンデレはさっさと逃げた。
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